変形性股関節症の手術について

はじめに

 これは主に、股関節の悪い患者さんへの手術について書いたものです。 保存的治療とあわせて、特に日常生活の注意を、良く読んでください。

目次

いつ、手術に踏み切るか
福祉制度及び、付添いについて
検査は何を行うか
術前合併症はどんな注意が必要か
麻酔はなにをつかうか
術前説明はいつ行われるか
手術法はどんな種類があるか
術後合併症は何があるか
一般的な術後後療法はどういうスケジュールか
退院後の後療法の注意点は
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いつ、手術に踏み切るか

 保存的治療でいろいろ書きましたが、基本的には、お医者さんが手術を
すすめたときが、手術の時期かと思われます。手術自体よりも、高齢者の
方は、むしろ糖尿病、心臓病などの合併症が問題となります。手術やリハ
ビリには、ある程度体力が必要です。長期の経過の中で、なるべく元気な
うちに、手術をうけることです。
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福祉制度及び、付添い

手術は、お金もかかります。積極的に利用します。
困ったときは、医者だけでなく、看護婦さん、ケースワーカー、市役所
の福祉課、福祉事務所 などで相談してください。
更生医療:入院費用が安くなります。経済的に問題ある方は手術の前に
申し込む  認可まで1月かかるので、手術が決まったら外来で早めに申し込んだ方が
よいようです
育成医療:18歳未満の場合。内容は同じです
高額医療制度:自己負担が6万前後を超えた場合に支給される
身体障害者手帳;人工関節なら4級です。
手術の場合、むしろ問題は付添いの有無(各種保険がききません)
 トイレに一人でいくまでは、どうしても付添いが必要でしょう。
 あとで標準的な後療法を書いておきます。大体の目安としてください
 ただ、24時間びっちり、必要な時期は、短期間と思われます。
 医師に相談するより、入院してから、病棟の婦長さんと、よく相談し
てください
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検査

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股関節の検査
 一般的には下記の検査から、選んで、いくつかの検査を行ないます。
 1)単純レントゲン写真
 2)股関節透視
 3)断層撮影
 4)CTーSCAN
 5)核磁気共鳴法(MRI)
 6)股関節造影
 7)股関節鏡
 8)その他
 針を刺すような検査は、造影と、股関節鏡ぐらいです。股関節透視が、
無理して動かすので、すこし痛いようです。
術前全身検査
 採血、尿検査、心電図などを行ないます。
 麻酔前に、全身状態、特に肺、肝臓、心臓、腎臓、糖尿病などを、す
 べてチエックします。
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術前合併症

骨粗鬆症
 特にこれからは、高齢者の大腿骨頚部骨折が増加することが予想されま
すが、これは骨粗鬆症の問題です。治療はADFR療法を行ないます。こ
れは3種類の骨量を増加させるを薬を、3カ月サイクルで順序よくのんで
いきます。治療開始前と終了直後に検査します。以後は3カ月毎に繰り返
します。薬は最低2年以上、できれば一生のむことが大切です。
全身合併症
 慢性関節リウマチ、糖尿病や心疾患、肝疾患、腎疾患などがあると、麻
酔の問題で、手術が面倒になります。すこし、早め(2ー3週前)に入院
して、十分な術前検査が必要になります。関係科や麻酔科の先生と、十分
相談しながら行なうことになります。
予め合併症(心疾患など)が分かっている方は、当院内の科にかかって、
いる場合は、問題ありませんが、他の病院にかかっている場合(市民病院、
開業医)は、できれば、いままでの経過の、紹介状を書いて貰ってください
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麻酔

一般的には全身麻酔で行ないます。肺疾患、全身状態等で問題ある
患者さんは、硬膜外麻酔で行ないます。
 手術前には、いろいろ約束事(禁煙とか)があります。これらは、意味が
あってしていることです。たとえばタバコをすっていると、肺が汚れ、痰が
多くなります、全身麻酔では挿管するわけですから、痰が気管内チューブに、
詰まったりすれば、窒息してしまいます。また陰部の剃毛は感染予防に、非
常に重要です。
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術前説明

入院してひととおり、合併症を含めた、検査が済んで、手術法と麻酔法が
決まれば、主治医から細かい説明があります。なるべく家族と一緒に、お聞
きください。
 そのときの患者さんにとって、ベストの治療法を選びます。ただ残念なが
ら、現時点では、100%、完成された、手術法はありません。
いずれの治療も、長所と欠点があります。ただ現在の状態よりは、確実によ
くなります。また手術によっては、術後すぐよりも、半年とか、1年後に
徐々に効果の出る治療法もあります。
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手術法

 当科で行なっている一般的な手術法は、下記のごとくです。
 どれを行なうかは主に年齢、破壊程度で決まります。
1)筋解離術
   非常に高齢者か、非常に軽い若年者に用います
2)大腿骨骨きり術(内反、外反、前方回転など)
   若年者に用います
3)寛骨臼回転骨きり術
   若年者にもちいます
4)人工骨頭置換術
   主に高齢の大腿骨頚部内側骨折の方に用います。
  注意は人工関節は皆同じです。ゆるみの問題です。
5)人工股関節全置換術
   現在高齢者では、主力の治療です。
  ある程度の年齢で、破壊程度のひどい方に、行ないます。
  痛みはほとんどなくなります。
  動きも術前より、よくなる患者さんが多いようです。
  成績は非常に安定しています。
当科では積極的に手術をしています。
  患者さんにもこの手術をおすすめします。
 ただ欠点があります。
  1)何歳で行なうか。
    原則は60歳以上だが、両側かどうか、破壊程度でかわる
    疾患によっては、20代でも行なう
  2)ゆるみの問題
    耐用年数は20年ぐらいか、しかし、体重や運動量、骨粗鬆症
   により、耐用年数は大きく異なります。早い人では、4ー5年で
   ゆるみがくる方もあります。
    ゆるみを防ぐような、日常生活上の注意が大切です。
  3)感染:1ー2年でゆるみがくる。
    人工関節は抜去せざるをえなくなる。最も大きな問題
   ただし、頻度は非常に少ない、1%以下
   糖尿病などの、合併症があると、やや危険
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術後合併症

 股関節が悪い方は、高齢者が多く、どうしても合併症が多くなります。
 また手術部位が深部であり、体内異物を用いる手術が多いので、出血
 量も多く、侵襲が大きい手術が多くなります。
全身状態の悪い方の(特に心疾患、肝疾患など)の、術中、術後の合併
症は、当然ありますが、股関節特有の問題としては、下記のものがあります
1)深部感染
  人工関節で詳述した。
2)深部静脈血栓症
 リスク:40歳以上で、肥満体、心血管系の異常。片麻痺患者、静脈瘤
 のある患者
 症状:術後1ー2週以内の、発熱と、下肢の腫脹
 予防:術後下肢にストッキングをまく
    下肢の術直後早期自動運動。
    術直後から、足首の運動を良くやってください
    いったん起こると、なかなかとれません
3)血清肝炎
  予防:なるべく輸血をしない、セルセーバー、濃厚赤血球、自家血輸血
     術後1カ月ごろに肝機能検査
  症状:術後3ー4週での原因不明の発熱に注意
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一般的な術後後療法

後療法の原則:保存的治療と共通
 1)筋力強化
   筋力の改善までは(8ー10週)、脱臼の防止につとめる
   人工関節では股関節を屈曲内旋すれば脱臼します。
 2)可動域訓練
  積極的に行なう。非手術側にも行なう
各論
 以下に一般的な後療法のスケジュールを書いておきます。術後に皆さん
に、このように書いた、日時いりのスケジュールを渡します。同じ手術で
も、骨移植をしたり、患者さんの年齢や合併症などの条件により 、遅くな
ったりします(早くなることはありません)。

1)寛骨臼回転骨切り術後療法
術前:SLR。外転筋強化
術後
1日:外転位保持側臥位
あるいはスピードトラック2ー3Kg
30ー40度坐位
2日:スリングSLR、
   股関節屈曲軽度(40度以内)
1週:四頭筋訓練
2週:下肢外転自・他動訓練。
   中臀筋強化、ハーバード
3週:外転位保持はここまで。
4週:車椅子、ベット上体位変換可
6週:K-WIRE抜去
1/3荷重開始
8ー12週:片松葉
12ー16週:全荷重
5カ月で退院
2)セメント人工骨頭置換術(OMNIFIT CーTYPE)
  術直後:外転位保持 足関節の自動運動
          30度上体挙上可
 1日 :大腿四頭筋等尺性運動
 2日 :足関節うちがえし、そとがえしによる、股関節内転筋、
     外転筋筋力強化
 4日 :CPM開始。股関節、膝関節自動介助運動開始
 1週 :徐々に1週かけて坐位へもっていく
 2週 :抜糸、車椅子訓練開始
    外転枕は昼は除去、夜間装着
 3週 :XーPチエック よければ、部分荷重開始
      1週毎に1/3 1/2 1/1へ
          外転枕除去
 6週 :6週程度は、股関節の脱臼を避けるため、内転屈曲は避ける。
     そのための股関節を外転保持するために、大きな枕を使用する
 8ー12週 階段の昇降が、一本杖で、できれば退院
3)人工股関節全置換術(セメント)
 術直後:外転位保持 足関節の自動運動
          30度上体挙上可
 1日 :大腿四頭筋等尺性運動
 2日 :足関節うちがえし、そとがえしによる、股関節内転筋、外転筋
 4日 :CPM開始。股関節、膝関節自動介助運動開始
2週 :抜糸
 3週 :徐々に1週かけて坐位へもっていく
 4週 :車椅子訓練開始
     外転枕は昼は除去、夜間装着
 6週 :XーPチエック よければ、部分荷重開始
     2週毎に1/3 1/2 1/1へ
     外転枕除去
 8週 8週程度は、股関節の脱臼を避けるため、内転屈曲は避ける。
    そのための股関節を外転保持するために、大きな枕を使用する
12週  階段の昇降が、一本杖で、できれば退院
退院の目安:
 原則:一本杖で階段昇降が出来れば退院
高齢者:術前の状態と同じ程度の、日常生活動作が出来るようになっ
     たとき
     あるいは理学療法による日常生活動作の改善が止まったとき
    長期間、完全に直るまで、病院にいることはできません。
 大体、あなたが思っているよりは、はやく退院となります。
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退院後の後療法


1)訓練
 患者の年齢、職業、家庭での役割で変化します
 筋力増強訓練と可動域増強訓練は毎日する
 股関節に負荷のかからないスポーツ(水泳、自転車など)を行なって
 ください
2)基礎知識
 残念ながら変形関節症では真の治癒は存在しません。おおかれ少なか
 れ、なんらかの支障が生じることが多いようです。
変形関節症を憎悪させる因子、すなわち
 1)体重増加(入院中に、食事療法を理解する)
 2)激しいスポーツ
 3)重量物を持つような仕事をさける
 4)長距離歩行を避ける
 5)長時間立っていない
 6)長時間正座しない
 7)感染に注意。
 これらを避けてください
3)定期的な受診
    術後半年は2週毎
    1年は1カ月毎
    1年以降は半年毎
    3年以降は1回/年
以後は動けなくなるまで受診してください
  人工関節のゆるみは術後10年以後が多い。
 従って、むしろ、3年以降、特に10年以後の受診が大切です。
 なるべく同じ病院へ通ってください(あるいは紹介した病院へ)
 変形性股関節症は長期の疾患なので、一生の間でいく病院が、少
 なければ 少ないほど、レントゲンがあつめやすいのです。
 理想的には子供の頃から、死ぬまでの、レントゲンが一つの病院
 へあれば 治療も考えやすいのです。
 医者が変わるのはやむを得ません。しかしレントゲンがいざとい
 うときは最も大事なのです。

4)日常生活の改善、自宅の改造
  経済的に可能ならば、自宅のトイレ、浴室、台所、寝室の改造
 1)布団からベットへ
 2)トイレは洋式
 3)椅子の生活
 4)階段にてすり。廊下、風呂にもつける
 5)台所で椅子を
 6)浴室に椅子を
 7)靴はローヒール
 8)起床時は布団の中で、運動してから起きる
 9)自動車か自転車の運転
 10)なるべく床、風呂の段差をなくす
 11)炊事洗濯、性生活、妊娠は制限しない。
   出産後は、体重、子供を持ち上げたりに注意

6)病院の選び方
 1)住いに近いこと(整形外科専門医)
  変形性股関節症は、長期にわたる疾患です。遠くの町にいくら
 良い先生がいても、通院が長続きしません。現在は整形外科の専
 門の先生は、開業医として、どの町にもいるはずです。そういう
 ところに通ってください。手術が必要となれば、大きな病院を紹
 介して貰って、術後は また、その先生のところに帰ってもよい
 と思います。
  主治医に気軽にご相談下さい。
 2)信頼できる先生
   これは、相性の問題もあると思います。
   あまり遠慮せずに、看護婦さんににでも、ご相談下さい
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