膝関節の悪い患者さんへ
(変形性膝関節症の保存的治療のために)
はじめに
ある程度の年齢になって膝が痛くなるのは、加齢により膝の関節の軟骨がすり減るためです。軟骨がすり減ると、骨に直接負担がかかるので、そのために膝がはれたり、水がたまったりして、痛むようになります、左の図の赤いところが、軟骨がすり減っています
原因
1)長年の労働
2)老齢
3)肥満
4)筋力の低下(特にふとももの筋肉)
5)膝の内反傾向(いわゆるがにまた)
治療の原則
1)膝関節にかかる負荷を減少させる
1)荷重の減少
体重減少、杖、筋力増加
2)膝関節の接触面積の増加
骨きりなどの手術的治療
2)膝関節自体を取り替える
人工関節
つまり、膝関節にかかる力を減らすことが大切になります。
各論
保存的治療
変形性膝関節症に対する、正しい知識を身につける
変形性膝関節症は、罹病期間が長く、完全な治癒は望み難い。
従って、日常生活とか、病気に負けない心構えが大切。
賢い医者へのかかりかたも必要。病気の知識を身につけましょう。
先ずは基本的な治療をしっかり把握してください
変形関節症を憎悪させる因子、すなわち
1)体重増加(特に、食事療法を理解する)
2)激しいスポーツ
3)重量物を持つような仕事
4)長距離歩行、特に階段の下り、坂の下りを避ける。手すりを使う
5)長時間立っていない:台所などでの長時間立位は休憩を入れる
6)長時間正座しない:坐位から立位時には、いきなり立たない、すこし膝の運動してから立つ
7)感染
8)寒冷
痛みは寒冷時に増強する。梅雨時、クーラー、冬期などは、長時間寒冷にさらされないように
これらを避けてください
安静
色々な運動は、やりすぎは禁物です、痛みが出れば、安静にすることです。
治療の原則は安静です
減量 :栄養指導
非常に大切です。これだけで、膝関節痛は楽になることが多いようです
変形性膝関節症の患者さんは、どうしても運動しないので、肥満傾向になります。
体重が20Kgへれば、荷重計算では、半分ぐらい手術をやったのと、同様な
効果が出ます。膝関節の手術も基本的には、膝関節にかかる力を減少させるのが
目的です。人工関節でも、ゆるみを遅らせるためには、体重維持が大切です。
できれば入院中などに、食事療法を徹底して、覚えてください。
外来でも、希望なら当院の栄養士さんに紹介します。やせ薬もあります。
基本
低カロリー 600ー1200キロカロリー/日
高蛋白:1.0−1.5g/Kg
低糖質:ただし最低でも100g/日
脂肪:植物性脂肪(不飽和脂肪酸)
目標体重
標準体重にしてください
標準体重は下記の推薦図書の中に、グラフがあります
それで見てください
推薦図書
食事療法の本
「毎日の食事のカロリーガイドブック」香川芳子 女子栄養大学出版部
「食品80キロカロリーガイドブック」香川綾編 女子栄養大学出版部
これらを見ながら、1カ月程度、毎日の食事のカロリー計算をすれば、すぐ
なれます
筋力増強訓練
減量とならんで、変形性膝関節症の治療の大きな柱です。非常に大切です。
これは毎日行なうことが大事です。特にふとももの筋肉(大腿四頭筋)を鍛えてください
ただし、終った後、かえって、膝が痛くなるときがあります。それはやりすぎです
自分の体力と相談しながら、行なってください。
リハビリとは、自分で努力することです。マッサージだけやって、楽になったでは、いつまでたっても直りません。下肢の太さを、左右同じくなるまで、自分で頑張るべきものです。理学療法士にきちんとおそわって、自分でも毎日、根気良くふとももの筋肉(大腿四頭筋)強化を、行なってください。
大腿四頭筋訓練
筋力低下が著しいもの、膝関節痛が強いものは抵抗を加えない。あげるだけ
筋力が増強するにしたがって、抵抗を増加させる
方法
砂のう 販売もしています。自作すればただです。
1ー2Kgのものを2つぐらいずつ、砂をビニールに入れてから、布袋
に入れた方がよいでしょう。また、足趾に引っかけられるように、太めの紐
をつけてください(細いとくいこむ)
効果
訓練開始後3カ月ぐらいで、効果が出る例が多いようです。したがって最低3カ月は、きちんと行なってください
その他の運動
基本的にはやはり大腿四頭筋を鍛えることです。膝になるべく負担のかからない運動がベストです。たとえば水泳、自転車などです。
水泳 :平泳ぎはすすめません、おとしよりは水中歩行(水の中を歩く)がよいでしょう。
自転車:最低20分こげるような負荷からはじめる
歩行 :おとしよりには、あまりすすめません。
変形が軽度であれば、足底板をつけて、運動靴をはき、上体をまっすぐにし、歩幅は出来るだけ大きく、横揺れ、上下動をすくなく、肩の力を抜いてリズミカルに歩く
毎日、1日10分以上歩く、できれば、30分以上歩く
ランニング:若い方に
若い方で歩行では運動強度が低いとき、使用する
あらかじめ変形があればランニングで、逆に変形が進行するので注意。
前後に、大腿四頭筋と、ハムストリングのストレッチングは十分に
走行距離は200Km/月以下とする
薬物治療
:
イ)消炎鎮痛剤
膝関節が痛いときは、まず診察して診断後、痛み止めと、筋の痙攣をとる筋弛緩剤と、胃腸薬を、出します。
薬は痛くなければのむ必要はありません。軽症の方はこれでなおります
重症の方は、薬は、定期的かつ長期間のむことになります。上手に使えば、痛みのない快適な生活をおくれます。かなり痛いときは、坐薬をうまく利用してください。
薬は、積極的に利用すべきです。または痛いときだけ内服剤を、不定期にのんでもかまいません。
内服の、副作用として胃腸障害に注意してください。胃が痛くなったら、無理
してのまなくて結構です。医師にご相談下さい。ただ消炎鎮痛剤は、現在50
種ぐらいあります。どれかは、体にあう可能性があります。
副作用が恐くて、薬をのまないのは、賢いやり方ではありません
副作用のチエックに、定期的に血液検査、尿検査を行なったほうがよいでしょう
ロ)外用剤
いわゆる湿布です。痛いところに1ー2回/日貼ってください
残念ながら、国の政策で1回にあまり多くは出せません。ご了承下さい
ハ)注射
痛いのは、みなさん膝の内側です、しかし関節内への注射は膝の外側から行ないます。
膝の軟骨を保護するために、アルツという薬を入れます。
通常はアルツに局所麻酔剤をまぜていれます
投与回数は通常は週に1回で5回までです
ステロイド
膝が腫れたり、水がしょっちゅうたまるかたに、2ー3週間隔で3回程度まで、ステロ イドという特殊な薬を膝関節内に注射することがあります。
注射の合併症として恐いのは、膝の中にばい菌が入ることです
膝に注射した日から2日間(膝の針穴がふさがるまで)は風呂に入ったりしないで
ください。
ニ)関節洗浄
しょっちゅう膝に水がたまるときは、関節洗浄を行ないます。外来で生理食塩水150ccであらいます。それでも駄目なら、やむをえずステロイドを使用します。
歩行時の杖の使用
膝関節にかかる力を減少させるのが目的です。悪い方の足と反対にもって
使用してください。
人工関節術後も大切。ゆるみをおくらせることが出来ます
ちなみに荷物は、悪い方の手で持つことです
温熱療法
膝関節が痛いときに温めると、楽になることがあります。お風呂、温泉がよいと思い ます。病院ではホットパック、極超音波などを使います。
外来で、手軽で、おすすめするのはスペンコ湿布です。これは、電子レンジで温めて 膝関節にあてる温熱治療材です。ただし家庭に電子レンジがある方のみです。
可動域増強訓練
関節の動きをよくしないと、日常生活の種々の動作が不便になりますし、手術後も 苦労することになります。
補装具
イ)外側楔状足底板(外側が高くなったクサビ状の足底につける装具)
足の底に柔らかい靴の下敷をつけます。外側が10mm高くなっています。
膝の内側にかかる負担を減らします。非常に効果があります。
原則として就寝時以外は、一日中つけてください。
最初から一日中つけっぱなしではなく、徐々にならしながらつけていってください
外出時の靴は踵が低く、大きめのものをはくようにしてください。
ロ)膝装具(保温、安定性確保)
膝にサーポーターをまくのも保温や、安定性の確保によいと思います
最初はすこしきつめのものを買うことです。すぐゆるくなります
下着の上につけるのもよいでしょう
ハ)弾性包帯固定
水がたまったときなどに、膝の水を抜いてから、圧迫包帯をします
圧迫は2週程度行なってください。包帯は毎日1回まきかえてください。
症状の軽い方は、安静と消炎鎮痛剤ぐらいでじゅうぶんと思いますが、長い経過の間に
は、結局、今までのべた、治療法を、すべて行なうことになると思います。いずれにしても、大事なことは、膝関節の筋肉を鍛えること、体重減少に努めることです。
いつ、手術に踏み切るか
変形性膝関節症のように、慢性の疾患で、徐々にしか悪くならない患者さんは、いったん、保存的治療になれば、なかなか、手術に踏み切れない方もあると思います。
疾患の程度、年齢によって大きく異なりますが、上記の保存的治療を、きちんとこなしても、
1)膝関節の痛みと、動きの悪さが、我慢できなくなったとき。
2)痛くて、日常生活に著しい制限をせざるを得ないとき。
3)1カ月に2ー3日膝関節が痛くて寝込むようなとき。
このような状況になったときは、医師と相談してください。
痛いのを我慢して、いたづらに、保存的治療で頑張るのも考えものです。
我々は進行した方には、ある程度、積極的に手術をしています。
手術は、術後のリハビリを含めてある程度、体力を必要とします。
手術は75歳ごろまでには、行なっておく方が、よいでしょう。
また、心疾患とか、糖尿病とか、合併症がある方は、すこし早めに、
手術に踏み切った方がよい場合もあります
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