スポーツ医学に関する質問

▼Q24.程度によるでしょうが、捻挫・打撲ではどのくらいの

期間・休養が必要でしょうか。またその場合、障害部位以外

(負担がかからぬ程度)のトレーニングは可能でしょうか。

(ラクビー)

A:1)捻挫・打撲の際、必要な休養期間

受傷の程度や受傷部位により、必要な安静期間・休養期間が異なるのは勿論、スポ

ーツの種類、年齢・性、また初回新鮮例か習慣性例かにより、損傷復帰迄の手続きは

異なります。また受傷直後の応急処置のあり方も予後を左右します。従って捻挫打撲

後に要する安静や休養期間は症例毎に正しく診断して決めるべきで、一律の正解はあ

りません。

(a)捻挫・打撲とは何か

捻挫とは、ねじって(捻)くだく(挫)こと。

打撲とは、たたいて(打)うつ(撲)こと。

どちらも本来は外力の性質を表す言葉で、病名ではありません。

捻挫という外力で生じた外傷(の一部)を病名でも「捻挫」といい、打撲という外力

で生じた外傷(の一部)を病名で「打撲(傷)]といいます。

「捻挫」は関節外傷の一種です。関節に正常の運動範囲を越える外力が及んだ時、

関節周囲の靭帯や関節包が引き延ばされたり切れたりした状態です。「打撲(傷)」

は打撲という外力により(皮膚・粘膜の表面よりも)深部の組織が圧挫されて生じた

損傷のことをいいます。

ただし、打撲捻挫という外力で生じた外傷でも、脱臼骨折や内臓損傷などは「打撲

傷」「捻挫」とは言いません。

(b)「捻挫」の程度は3段階に分類!

「捻挫」といわれる関節外傷を医学的には次の3段階に分けています。

@軽 症:靭帯が僅かに伸ばされた状態。

比較的限られた部位に軽い腫脹・疼痛がみられる。

A中等症:靭帯が部分的に切れた状態。

広範な腫脹・疼痛・皮下出血、時に関節血腫がある。関節の不安定性はない。

B重 症:靭帯が完全に切れた状態。

著明な腫脹・疼痛等の他、特徴的なことは関節の不安定性である。

(c)「打撲傷」も軽重さまざま!

打撲という外力は、皮膚・皮下・筋・筋膜・腱・血管・神経・関節を損傷して、さ

まざまな症状の「打撲傷」をおこします。

(d)肉ばなれ

筋肉を急激に伸展した時に生ずる筋損傷が「肉ばなれ」ですが、安静や治療は打撲

傷や捻挫と同様に考えています。

(e)捻挫・打撲傷への対応

@受傷直後に実行すべきこと:R・I・C・E、またはI・C・Eです。ご存じのよ

うに、R=安静、I=アイシング、C=圧迫、E=挙上です。それぞれの手技の詳細

は別項に譲ります。

A固定免荷安静の目安:以上述べた打撲捻挫の考え方を背景に、受傷後の安静等につ

き、あえて粗っぽい目安を申し上げれば、

軽 症:当初から症状に応じてスポーツを続けることが可能な外傷もある。

固定・免荷・安静 3〜7日、

中等症:固定・免荷・安静 3週、

リハビリテーション 2〜3週。

重 症:しばしば手術が行われる。

保存的には固定など 6〜8週、

リハビリテーション 3〜6週。

 

(f)外傷を受けやすい関節

スポーツ中によく捻挫する関節は足関節を筆頭に膝・肘・手首・指の関節です。

@足関節:足関節の外側には前距腓靭帯・踵腓靭帯・後距腓靭帯があり、足関節の内

側には三角靭帯があります。

足関節の外側の捻挫では前距腓靭帯の損傷が多い。それに内側の三角靭帯損傷が加

わればしばしば引き出し症状がみられ、踵腓靭帯が切れると足関節は不安定になり、

亜脱臼をみることもある。完全断裂であれば手術をすることも少なくありませんが、

保存的には絶対安静3週・比較的安静3週という考え方、更に長期の固定を主張する

考え方もあります。

A膝関節:捻挫機転により側副靭帯断裂・十字靭帯断裂・半月板損傷といわれる傷害

が起こる。これを「捻挫」とは言わない。側副靭帯の軽症で2〜3週の固定、中等症

で4〜6週の固定を要する。競技選手の十字靭帯・半月板損傷では手術をすることも

少なくない。

B突き指:指先にボールが当たったり、物をついたりしたとき生じる。

第1指節間関節外傷の「槌指」変形

固定:腱損傷6〜8週、骨折4週。

第2指節間関節の側副靭帯損傷

局所安静又は固定:1〜6週。

母指突指(尺側側副靭帯損傷):保存的に軽快し難いことが多く、しばしば手術。

2)障害部位以外のトレーニング

積極的に行うべきです。

@個々の傷害に適合したメニューを作る。

A種々のトレーニンググッズを利用し、心肺機能・筋力等の保持につとめる。

Bイメージトレーニングを加味する。

3)スポーツ外傷とスポーツ障害

捻挫・打撲傷は「スポーツ外傷」です。

これと並んで考えておかなければならないことは、スポーツ活動を熱心に継続して

いて起こる「スポーツ障害」です。野球肩・テニス肘・ジャンパー膝・疲労骨折等々

、枚挙に遑ありませんが、外傷と障害をスポーツ傷害としてまとめて対策を考えるべ

きです。

4)最後に

@「捻挫・打撲傷」は日常よく見る外傷なので一般に軽視されがちですが、“捻挫・

打撲=たいしたことない”は禁物です。

Aどの程度の外傷かを本人や現場だけで判断するのはリスクを伴いがちです。現場は

応急処置後しかるべき医療機関の判断を参考にすべきです。

Bこの際、求められる課題はスポーツ現場と医師の考え方の共有化です。医師はスポ

ーツ現場の考え方を理解できること、現場はスポーツ医の判断を信頼できること、そ

んな人間関係の構築が、個人の関係でなく地域のシステムとして是非必要です。

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