21世紀の医療情報。IT革命は医療をどう変えるか

2001年新春座談会


平成12年11月7日於仙台

八戸市医師会情報システム委員会委員 本田忠

鶴岡地区医師会理事 三原一郎

宮城県医師会長 安田恒人

宮城県医師会副会長 大槻昌夫

宮城県医師会常任理事 嘉数研二

宮城県医師会常任理事 桜井芳明


桜井 明けましておめでとうございます。今年も、ひとつよろしくお願いいたします。

 最初に、まず新春座談会ということで、会長に御挨拶をお願いしたいと思います。

安田 明けましておめでとうございます。平成13年、2001年、21世紀の冒頭に医師会の座 談会ということでございます。どんな夢のお話が出てくるのか、これから大変楽しみでご ざいますが、今日は、特に若手の先生方で、東北6県の中で情報システムに関して大変す ばらしい実践をしていお二方においでをいただいて、この座談会をするということになり ました。

 八戸医師会の本田先生、それから鶴岡地区医師会の三原先生のお2人に交じっていただ きまして、宮城県側は主として情報担当の先生方がお集まりになったというわけでござい ます。どんな夢がこれから語られるのか、私はどちらかというと聞き役の方に回ろうと思って おりますから、どうぞお許しいただいて、大いにいろいろな点からお話をいただきたいと 思う次第でございます。

桜井 では,今回のテ−マ「21世紀の医療情報」−盛んに今言われております「IT革 命は医療をどう変えるか」と。大変大きなテ−マで座談会を始めるわけでございますけれ ども,では,レジュメに沿って進めていきたいと思います。

 ITというところで、本田先生にいい資料をつくっていただいたのでございますけれど も、本田先生、イントロダクションで、ITということに関して先生がお書きになったと ころをちょっと説明していただけますか。


IT革命時代の到来

本田 では、よろしくお願いします。まずITという定義なのですが、ITのIは当然、InformationのI、そしてTechnology のTということになります。要するにInformationの技術(情報技術)という意味なのです また、革命というのは不連続の変化、物の考え方の変化、仕組みの変化ということに なります。ネットワークというのは、ネット上での仕事、網の目の仕事と。要するに、網 の目のような状態で仕事をするということになります。  だから、厚生省も末端の会員も、あるいは患者さんも、あるいは個人医師も、スタッフ も、すべてつながっていて、その中で仕事をしている状態がネットワークだろうと。 そこでのキーワードというのは、双方向と情報の共有化という概念だろうということになります。

 インターネットというのは、情報をディジタル化したものをお互いに共有したりして使用できる道具であると。ホームページというのは、そこに出た情報をすべて一元化し て蓄積できる図書室、あるいは何でもいいわけですけれども、情報がたまるところだと 思います。 その特徴としましては、さっき言ったような双方向性と情報の共有により、組織の活性 化と、決断が迅速になると。要するに網の目のようになるということになります。組織は 1つの有機体になると。皆つながるというイメージでございます。

 双方向性の中において、組織の構成員からの情報を吸い上げる。要するに、末端会員の ニーズもすべて聞ける、上からの情報もすべて聞けるというイメージです。同じような情 報を得たことによって、その中でみんなで考えることができる。厚生省情報も来るし、末 端の会員からの苦情も来るし、その中でどうやっていくかということをごちゃごちゃ考え る場がネットワークだろうということになります。

 その結果どういうことが今起こってきているかということなのですが、まず大量の情報 が発生する。毎日物すごい量の情報が流れてきている。例えば私のところには、1日にメ ールが400通から500通来ております。実際に自分で書く情報も、50通から60通は書いてお ります。これが2年ぐらい続いているという状況でございます。

 今日持ってきた関連資料も、1cm近くなってしまった。これを読むだけなら30分ぐらいで読めてしまうのですけれども、それくらいの情報が流てているということになります。 あと、痛感するのは、すべての個人や組織は批判にさらされると。厚生省は当然批判さ れるわけですけれども、個人も当然、発言すれば、それに対する反応はびしびし来ますの で、批判される。要するに、かなり厳しい状況にもなりえます。しかし同じ情報網を共有するわ けですから、組織の一体感が増す。個人批判も出やすいけれども、均質化も同時に起こってくる。毎日同じ情報で、同じように考えているわけですから均質化は当然起こってきますね。

また、非常に変化が激しくなりますので、その中で小回りのきく組織になってきて、 即断即決しなくていけない。問題が起こったら、すぐそこで決断すると。いわゆる小回り のきく組織になってくるだろうと。 あとは、常に批判を受けるわけですから、非常に明確な論理とか倫理感、あるいは正統 な論理でいかないとつぶされる。がんがん批判されます。例えば患者さんのところで医者の傲慢な態度を見せれば、当然、批判が来ます。 ネットというのはお医者さんだけではございませんので、新聞社もいるし、厚生省の官僚もいる。その中で徹底的な倫理、あるいは論理で闘うほかなくなってくる。要するに、俗に言う直接民主主義、あるいは多事争論の世界というところです。

桜井 聞きますと大変な世の中がやってくるような気がするのでこざいますけれども、I T革命が進めばそういう世界がベースにできるということに関しては、皆さんご異存ござ いませんか。さあ、それが医療をどう変えるかというのが、今日の主題であります。


健康保険システムとIT

桜井 まず、一番気になりますのは健康保険のシステムであります。当たり前ですけれども、 現金が動いているようなお店というのは今はもうめったに見られなくなった世の中では ないかなと思うのですけれども、なぜ医療保険というのはこういう状態になっているのか 総括していただきながら、阻害因子は何なのかということと、将来はこのまま行くのか、 変わるのか、その辺をお聞かせ願いたいと思います。医療保険全体について、まず、会長、いかがですか。

安田 保険もそうですけれども、全体的にそういう意味での医療自体のシステム化が物す ごく遅れているということは言えますよね。それをどうすればいいのかというのは大問題 なのですが、この間、東大の名誉教授の開原先生と対談したのですが、この3年間ぐらい に物すごく進歩した。  そういう情報革命と言われるような動きがあるのですが、この1年半だけ考えてみても、 PHSなどのiモードが始まったのが去年の2月なのですね。去年の2月に始まって、今ま でで大体1年半たっているのですけれども、iモードに参画している人が1,000万人いる というのですね。5,000万の携帯電話が出ていて、そのうちドコモの関連のが3,000万あっ て、そのうちの1,000万がiモードを使っている。

 確かに便利なことは便利で、私も使いますけれども、どこへ行ってでもメールを送るこ とができる。250文字という制限はあるけれども、ちょこっとしたことだったらすぐに送 れるという問題がありますから、そういう時代になってきていることだけは確実なのですね。

 ところが、そうであるにもかかわらず、医療の中でどれだけのことが行われているのか ということになると、なかなか進展しない。それは、行政が握ってきた健康保険制度とい う制度の中で、いわゆるシステム化、ディジタル化は最も遅れてしまって、ほかの産業か らは全く後れをとっているということになっているのではないかと思っているわけです。

 だから、21世紀はそこをどうやって突破して、どうしてシステム化していくかというの がテーマなのではないかと、私は考えているのですけれどもね。

桜井 僕はまるっきり門外漢なのですけれども、何が阻害因子なのかどうも理解できない のですけれど、大槻先生あたりはどう思っていますか。

大槻 日本での今までの医療情報、あるいは情報システム化は、どちらかというと大病院 を中心に進んできた傾向がありまして、どうしても病院そのもののシステムがかなり先行 してきてしまって、最近になってここ4〜5年くらいに、むしろ今度は逆に個人で開業し ている先生方の情報化が進んできて、そういうところをつなぐ道具としてインターネット が出てきたのでしょうけれども、なかなかそこまでついていっていないのが実情のような 気がします。

 そういうところで、例えばレセプトのコンピューターによる審査というのも一部の地域 で試験的にやっていますが、なかなかこれも普及していないという現状があって。ですから、こういうところは、やはりもう一度基本に戻って、医療情報のシステム化と いうことを、もう少しデータを流通させるという立場で考え直す必要があるのではないか という気はします。

桜井 テクノロジー的にはこれほど易しいことはないのではないかなと思うのですけれど も、それが進まないというのはやはり理解できないのですけれども、嘉数先生はどう思い ますか。

嘉数 その前に基本的な考え方をお話ししたいと思うのですけれども、先程本田先生がお っしゃった、コンピューター、インターネットを代表とした近代機器というものの基本。こうなるよ、こういう点が21世紀には大変なんだよというお話の基礎を今、本田先生が話してくれたわけですけれども、つまり我々、21世紀の医療情報ということで、 IT革命は医療をどう変えるかというテーマをちょっと考えたいと思うんです。

 結局、基本的な考えとして、医療における大部分の問題の根源というのは、こんなこと を言うと怒られるかもしれませんが、国民の皆保険制度にあるだろうと。つまり、医療費 が増大している、あるいは無駄遣いなのだとか、薄利多売なんだとか、低医療費の政策だとか、あるいはレセプト問題、架空請求とか、保健所との対立とか、こういういろいろな 問題が出てくるわけです。

 そういうことのすべての問題の根源というのは皆保険制度というところにあるのだけれ ども、しかし、ここがポイントなので、やはり国民がおおよそ健康的、文化的な生活を営 めるようになったのも、この国民皆保険制度の恩恵であるというふうに考えるわけです。 つまり、この恩恵を享受しているのがまさに国民であるということなのです。したがって、 国民皆保険制度を堅持することが国民の幸せであるという大前提のもとに、この保険制度 をいかにより良きものにするかということがポイントだろうというふうに考えているわけ です。


まず医療改革 -IT化は不可欠

嘉数 そのためには、1番目に、医療費の無制限かつ無駄な増大というのは当然避けねばならない。自然増、医学の発達、あるいは高齢化というふうなものは仕方ないけれども、アメ ニティーであるとか、過度の要求であるとか、それは受け付けられないよということ。

 第 2番目には、よく最近言われている「良質な医療」の提供ということがあるのです。その 提供には「ゆとり」ということが大切だろうというふうに考えています。経済的なゆとり、 時間的ゆとり、精神的なゆとりというのが良質な医療の提供につながるというふうに考え ているわけです。

 3番目に、やはり医師の自浄作用というものが結局求められるだろうと思っているわけ です。これは日本医師会の仕事になるだろうと考えています。

 さらに4番目として、生涯 教育の徹底というものも必要です。これは専門医制度であるとか、学会の研修会の無駄、 効率化というものにかかってくる。これも日医の仕事になっているわけです。

 5番目の最 後にマコスミ対策というのが実はありまして、結局、独断、偏見、横暴そのものである場 合もあるマスコミ対策。今言ったようなポイント、問題点を改善・改革するに、このIT、 あるいはテクノロジーというものの活用が不可欠だということを僕は言いたいわけです。

 まず、その辺のところだろうというふうに考えております。

桜井 やっと、先程本田先生がおっしゃったのとフレーズがつながってきました。

 そういうことで、先程本田先生がおっしゃったのは、とにかく、あれでいきますとすべ ての情報公開みたいな形になりまして、あと、みんなが同じ土俵に上がるということにも なりまして、それに耐えていくには今、嘉数先生がおっしゃったところをクリアしないと 我々医療界は耐えられなくなってしまうのではないかという心配があるわけですけれども、 その辺で、大分難しい話になってしまったのですけれども、それを踏まえて、どうこれか ら変わっていくのだろうというので、三原先生、ひとつご意見を述べてください。

三原 今、嘉数先生がおっしゃったように、保険制度というのは健康な人が病気の人を支 えていこうと。病気の人がいっぱいお金を払って大変な思いをするという社会にはしたく ない。では支えていこう、という制度だと思うのですね。その制度が今はうまくいかなく なってきた。 それは高齢化、少子化、それから高度医療ということが原因なのかもしれませんけれど も、そこから出てきたのが、今度は受益者負担という形で、では患者さんからお金を取れ ばいいのではないかと。それはやっぱり間違った考え方じゃないかと、僕は思っています。

  そのためにはどうすればいいかというのは、僕自身も政治のことはよくわからないので すけれども、結局、医療費の不足分は、税金という形ではなくて国庫から出してもらう。 医療費の総額は増やしてもらうという方向に行くべきだとは思っています。しかし、その ためには、やはり医療供給側のリストラが必要ではないかと。 1つは、無駄な医療、不適切な医療をやめてもらう。それから医療の供給の効率化。そ のためにITは使えるのではないかと思っています。そのためには電子カルテと地域の情 報ネットワークで、医療をガラス張りにしてしまう。これだけの治療にこれだけのお金が かかっているということをすべて公開していくということで、本当の医療というのはこん なにかかるのだ、これだけかかるのだということを国民に知らしめながら、もう一度、医 療というものを考え直していくということが、僕は必要ではないかと思っています。

その ために、ITというキーワードを引き金にして物の考え方が変わっていくのではないかと いうふうに考えています。

桜井 安田先生、皆さんのお話を聞いて、非常にシステムの導入が遅れていると。ところ が世の中は、IT化されるというところのデイスクレパンシーをこの数年の間に埋めて、医療が 先程三原先生がおっしゃったようなガラス張りということにはなっていくでしょうか。


医療構造改革-発想の転換が必要

安田 まず、なぜ展開しなかったかというと、医療以外のいろんな業態を考えると、シス テム化した方がメリットがあるからなのですね。つまり、経済的メリットがあったわけで す。ところが医療の場合に、システム化することによってメリットがどこにあるのかと。 それを余りわからないという問題が1つあるのですね。

 それからもう1つは、発想の転換がないのです。例えば銀行でお金をおろすのに、今ま では通帳という書面があって、そして判こを押さなければ絶対に駄目だったわけですね。 それを発想を全く変えてしまって、カードを入れてパスワードを入れれば出せる。判こは なくなったわけです。医療の中ではそういう発想の転換が全然ないのです。今でも処方箋 にはサインをしなければいけないとか、判こを押さなければいけないとか、紙でなければ いけないとか、そういう発想がないわけです。だから、システムに乗るための発想の転換 と、システム化することによって経済的メリットが起こらなければ、これは進まないに決 まっているわけですね。

 しかも、健康保険制度の中でシステム化にお金を一切出していないわけです。例えば、 ほんのちょぴっと変化はしてきたけれども、本田先生や三原先生が一生懸命ネットワーク を組んで、患者さんに便利なように一生懸命なことをやるけれども、それによる経済メリ ットと生まれてこないという問題があるわけです。

 だから、そこの基本のところがどうも医療には欠けているのではないかというのが僕の 説なのです。

桜井 何となくわかる。だから、外の方のネットワークを幾らあれしても、もともとが使 う気にならなければ乗っていかないのだ。

安田 機械を使うのではなくて、機械を導入することによってメリットがあるかないかと いうことの方が先に存在しなければいけないのだけれども、それがない

桜井 近い将来、そこはクリアされますかね。

安田 だから、構造改革というのは意識の改革なのだと僕は思うのですけれども、なかな かそういうことを言う人が少ない。

桜井 何だか、先行きがうんと……。

嘉数 話は少し飛びますけれども、日本医師会のうたっている総合情報ネットワークシス テム構想というのがございまして、県単位ではできたと。今度、郡市医師会単位でやりま しょう、そして個人単位でやりましょうと。そして、それについての情報は、先程話が出 ましたが、会員に物すごいメリットのある情報を提供いたしますという話を今、実はやっ ているわけですよね。これに非常に実は、僕は期待を持っているわけです。

 今度、11月下旬に委員会があるものですから、そのときにそれを聞いてみようと思って いるのですけれども。

安田 実は、この間、開原さんが言っていたのだけれども、あの人、大蔵病院という国立 の病院の院長さんをやられたから、そこでわかったという話なんだけど、1つは、病院内 のオーダリングシステムなどはうんと発展したと。ところが病院間のネットワークがない というわけです。しかもお互いに、隣の病院にどんな技術があって、どんな患者を送れば 向こうが喜ぶかというようなネットワーク上の連携が全然存在しないというわけです。む しろ発展しているのは、診療所間のネットワークの方が今や発展してきたと。それは発展 してきたのだけれども、これが全体的なネットワークにならない。そこは、やはりメリッ トが生じていないという問題なのですね。


医療保険のIT阻害因子-メリットが見えにくい

桜井 本田先生、どうですか。

本田 聞いていて非常に面白かったのですけれども、まず医療保険制度ということに関し てのIT化というのは、ここ2〜3日考えてみたのですが、確かにメリットがない。例え ば、今出てきているのが電子保険証。これは健康保険証と身分証と銀行カードが組み込ま れる。これは通産省がプロジェクトを組んでいるわけですけれども、だから何なのだ、 我々に関係ないだろうと言われれば、確かに関係ない。

 あとは、例えばレセプトの電算化と。これはメリットがあるのは、ちょっと速くなるよ という話で、ただ、それが導入されたから何なのだと。電算化するためにはパソコンを入 れなくちゃいけない。その金は誰が持ってくれるのだと。そう言われれば、確かにメリッ トは何もない。銀行カードなどは要らないだろうというふうに言われると、確かに、医療 保険制度でIT化とは何だと言われた場合に、何もないということなのですね。

 あとは、医師会の場合、日夜システムを組んでいて困っているのが、高齢化の問題と零 細化の問題と。お医者さんがどうしても平均年齢が高い。70代の方のピークがあって、あ とは40前後ということで、ラクダの瘤みたいな2つのピークがあるわけですけれども、年 齢構成が普通の組織よりはちょっと高いということ。あと、今、安田会長がおっしゃった ような、メリットがあっても負担が大きいから、この保険制度に関してはきついのかなと。

 もう1つ感じたのは、例えばレセプトの電算化で阻害要因というのは、基本的に査定の 問題。そんなものをやられたら査定が厳しくなるのではないかという問題があるので、例 えば日医などももろ手を挙げて賛成はできていない。そこら辺があるので遅れるのかなという感じはします。

嘉数 やはり、巷では規制緩和、規制緩和と言っているのに、医療に関してはさっぱり規 制緩和に……。ある意味では規制にはめ込まれているわけです。それは物すごくあるわけ です。

 例えば、患者さんのところに遠隔医療をやりましょうといって、画像をして、「では、 こちらでやりましょう」とやっても、それが点数にならない。それは駄目だよと。  あと、自分の診療所でCRなんかを入れれば、それはそれで、一応、法律はできた、機 械もできる。だけども、ここまで保証しなけばならない、ここまで担保しなければならな というふうな、いわゆるなかなか実現しにくい、現実的でない規制があるわけですね。

 僕は、やっぱりそういうのが1つは原因になっているなというふうに思います。メリッ トという点もあるかもしれないけれども、規制の点がちょっとまだ足かせになっているな と思いますね。

桜井 突破口というところで、どなたかいいアイデアございませんかね。それがないと、 ぱっと夢のような世界が開けていかない。

本田 医療保険制度で考えたらそういうことなのですけれども、診療体制と考えればまた かなり話は違ってくるということだと思うのですけれども。

桜井 すると、医療保険は最後まで置いていかれちゃうのかな。


まず健康保険証の電子化を

安田 僕は、さっきちょっと話しましたけど、まず健康保険証だけはカードにしなさいと。 そしてカードリーダーを全部入れなさいと。

 というのは、ペーパーを皆さんに上げましたけれども、宮城県だけで間違いのレセプト というのは年間に11万件あるのです。ということは、1カ月に1万件なのです。それの5 0%は使えない健康保険証を使っているのです。健康保険証というのは1家族に1枚です よね。そして家族が入っているでしょう。それを、辞めた人のやつを会社が届けないわけ です。だからチェックしようがないのです。そして先生方は、4カ月ぐらい支払いが遅れ てしまうわけですね。そんな馬鹿げたことをやっているのは、カードにしないからなので す。

 そこへちょっと書きましたけど、数時間前に失った買い物用のカードをほかのやつ が使って、電話1本かけてあるためにすぐ捕まっているのです。ところが健康保険証だけ は、捕まらないで、わかるまでに数カ月かかるのです。それもべらぼうな金になる場合も あるわけですね。だから、そういうことが猛烈に遅れている。

 私の考えは、ここにいらっしゃるような専門家に近いシステムをやっていらっしゃる先 生方は別として、一般の先生たちが、あのカードリーダーが1つ入ることによって、あれをレセコンに結びつければ絶対に間違いなく、名前も住所も、それから記号・番号も確実 に入ってくるメリットが出てくるのだけれども、その辺からじわじわと広げていかないと システム化しないという考え方なのです。それが30年も遅れてしまったという問題なので すね。

桜井 先生、それぐらいは近い将来になるでしょう。

安田 いや、すると厚生省は言っていて、実験ばかりして、いつまでもやらないですから ね(笑)。八代で実験を始めてから、もう何年になりますか。10年近くなるでしょう。

 あれはなぜ失敗したかというと、専門家たちが保険証のほかにいろんなものを入れよう としたからです。保険証だけだったら何でもなかったのに。  これはシステムの専門家たちが、光カードがいい、ICカードがいい、あるいは磁気カ ードがいいとさんざん議論して、これの方が余計入るよとさんざん言って、いろいろなも のを入れようとしたことによって発展しないでいますよね。

 だから、むしろ単純で、それこそ電車の切符と同じように扱えるような保険証をまず配 ることの方が……。住民はどんなに喜ぶかわからないでしょう。1人1枚なんですから。 そういうメリットを発見しないといけないのではないかと、僕は思うんです。

桜井 それは誰かが決断すればすぐにでもできることですから、ぜひそれから始まって、 受け付けから何からうんと簡単になって、その後に続ける患者さんの属性みたいなものが すっと入るというような形でやってもらわないと、ますます今の受け付け業務なども大変 ですし、その辺から今度は診療体制の方へ行きたいと思うのですけれども、今、カードが うまく動けばすぐに今度は電子カルテという話になっていくのだと思うのですけれども、 最初の「診療」ということで、電子カルテあたりからお話を始めようかなと思うのですけ れども、本田先生、いかがですか。


電子カルテの導入-高いハードル

本田 電子カルテに関しては、ハードルが非常に高いです。病院なんかでも同じなんです けれども、入力負荷の問題が一番大きいですね。例えば病院のオーダリングなんかで問題になるのが、今までお医者さんがやってこなか った仕事が、システムを組んだことによってお医者さんに回ってきちゃう。処方箋は自分 が書かなくちゃいけない。本当は書かなくちゃいけないわけですけれども、あるいは、今 まで看護婦さんにやってもらっていたような検査のオーダーとかを全部やらなくちゃいけ ない。だからお医者さんにとって何もメリットがないというのが、多分、病院の先生方の 不満。 あとは、意外と遅くなってしまって、融通がきかない。順番を変えようとしても変えられないとか、なかなかスタンダード論ではメリットが出ないだろうと。

 あと、診療所に持ってきても、基本的にはパソコンが7〜8台必要になってきますので、 初期投資が非常に大きいです。あと、失敗したら許されない。何だかんだで500〜600万か かってしまいますので、零細な病院にとっては非常に厳しい。あとは、患者さんの数の問題もあるのでしょうけれども、入力スピードの問題、キーボ ードアレルギーの問題。だから、いい電子カルテもございませんので、なかなかハードルは厳しいのではないか というのが今のところの感想です。

桜井 どうも、周りの発達に比べ、一旦病院の中に入りますとなかなか改革は難しいとい う印象を受けますけれども、大槻先生は電子カルテをやっていないのでしたっけ。

大槻 一応、考えてはいます。ただ電子カルテというのは、言葉がどちらかというとひと り歩きしているような嫌いがあって、先生それぞれが皆さんイメージを描いた電子カルテ なんですね。そうすると、要するにシステムを組むというのは1つにまとめるということ なのですが、そこが非常に医療の場合は難しい。

 病院あたりで、例えば内科が使っているカルテと外科が使っているカルテもかなり違い が出てくるし、そういうところを電子カルテの中に何でもかんでも取り込もうというとこ ろで皆さんイメージしているので、本田先生のようにハードルが高いのではないかという 気がするのですね。

 ただ病院は、どちらかというとシステム化するときに情報発生源入力方式を基本として 取り入れてきているので、そうすると、周辺の機械がどんどん今は、それこそIT革命で 簡単にインターフェースがつくられて接続できるようになってくると、要するにそういう 情報を集めていけば、ある意味では1つの電子カルテなので、やはりスタートは電子カル テにたくさんを期待しないで、入れるところから入っていった方がうまくいくような気が しています。

桜井 三原先生は、ご自分ではカルテそのものは、どこかディジタル化しているところを扱いになってはいないのですか。

三原 僕は完全に手書きで、まだ……。診療自体は楽ですし、その方が診療に集中できますから、それは使っていないのですけれども。

桜井 嘉数先生は。

嘉数 全く三原先生と同じなんですけれども、ただ僕自身は、最近、主治医の意見書を書 かせられたりとかいろいろするものですから、自分の診療所と、僕は4階に住んでいるん ですが、4階と、あと応接室と、それぐらいのプランを組んでいまして、ノートパソコン を持ち運びしながらこういうふうにやって、主治医の意見書をぱっと入れて、2回目の場 合だと、呼び出してちょちょっと直して出すとか、そういうふうな感じで使っているわけ です。

 なぜカルテに入らないかというと、やるならば本当の意味でのペーパーレス、フィルム レスにして、あとレセコンと確実につなぎたい。そしてミスのないレセプトを出したい。 そのためには本田先生が言ったようにかなりの金がかかるし、実際にはこれをきちんと請け負ってくれるようなメーカーというのはなかなかいない。自分でそれを組み立てること をやっている先生方もおります。おるのですけれども、例えば僕のように労災もやり、入院もやり、一般の交通事故もやりというふうにやりますと、そういうものが全部きちっと なるなどというのは不可能ですね。現段階ではなかなか難しいですね。時間がかかる。

 そういうことで、本当ですと、僕は整形外科なものですから、そういうものも入れたい し、CRなんかも入れたいし、フィルムを入れたりしていろんなことをやっているうちに、 やらないで現状に至っていると。こういうことが普通なのです(笑)。

桜井 どうも、電子カルテの普及はお先真っ暗なようでございますけれども(笑)。そう じゃないんですか。


電子カルテはお先真っ暗?

大槻 いや、決してそうじゃないと思いますよ。  というのは、例えばそういう電子媒体物の保存に関して、厚生省はある意味ではかなり 規制緩和してきている。要するに、管理する組織の責任で保存していいということになっ たわけですね。そのために、結局そこへつける条件がまたある意味では普及を阻害するの でしょうけれども、例えば情報管理委員会みたいのをつくるとかですね。そうすると個人 だとなかなかできないだろうし。ただ、機械もどんどん安くなってくるし。

 今は電子媒体物に投資するお金よりも、フィルムの方がまだ安いですよね。これが逆転 しない限りはなかなかX線の情報化というのは普及しないのではないかというところは心 配していますね。

本田 流れが大き過ぎるんですよね。

大槻 そうですね。  あと、どうしても医者側がより精度の高いものを要求するために、その辺がまたある意 味ではコストを高くしているところがあるのではないかという気がしますね。

桜井 僕は病院だけれども、発生源入力というところで、さっき本田先生がおっしゃった ように、医者の仕事が多くなるのではないのという危惧があって余りみんな乗ってこないというか。我々のところでやるとしたら、トップダウンでやらなければみんな言うことを聞きませ んよ。

大槻 それは、入れたデータを後でいろいろな意味で使えるようなデータベースをしっかりつくって提供する、フィードバックをするということを忘れて、特に第一線の病院はそれをやってないで、要するに病院経営のための入力ということで、かなり抵抗があるので はないかと思うのですね。

 ですから、そういうところは、確かに医者が入れる。医者はオペレーターではない、負 担であるというのは事実なのですね。ですから、入れた結果、プラスになるような情報の フィードバックというのは、やはり必要だと思いますね。

桜井 ただ、先生、いわゆる情報開示と言われているでしょう。それは先程本田先生が言 ったような、全体の土俵の中に普通の個人情報が載ってくるとは思いませんけれども、し たがってそこにオールがつくられるようになるでしょうけれども、透明化するというか、 求めがあればさっと開示するとか云々というのには非常にいいというか、簡単というか。 カルテそのものが一回できてしまえばね。


誰が入力するのか-この点が一番大きなハードル

本田 常に問題になるのが、誰がそれを入力するかなのです。さっきの電子保険証の話もそ うなのですけれども、なぜ失敗したかというと、誰も入力しないから失敗したわけですね。 誰が入力負荷を請け負うのかと。結局、医療情報というのはそこの問題が一番大きいので すね。

 結局、一次情報がディジタル化されればすごいことになる。当然、電子化というのは入れなくちゃどうしようもないわけですけれども、そこの問題があるのでどうしようもない と。毎日100人も200人も患者さんを診て、その情報を誰が入れるのかと。

 例えば我々、診療所ですと、結局、社長兼院長ですから、秘書を1人持ってくればいい と。私などだったら、恐らく自分のところでやるのだったら、秘書を置いて口頭指示でオー ダは事務の人に入れてもらう。

 だから、すぐ導入できるとは思っているのですけれども、ただ勤務医の先生方がそれが 果たしてできるかというと、できるわけがない。そうすると、むしろ病院の方がきついの ではないかなという感じはしますですね。

 確かにメリットはわかっていると。ただ、誰が入れるかと。そこがクリアできない限り、 かなりきついのではないかと。

安田 大槻先生が言ったように、電子カルテというのは、あのカルテが全部電子になって しまうのだと考えてしまうと大変難しいですよね。ただ、一部ずついろいろデータベース 化していることはかなりできてきつつあるという、それは言えると思うんですね。

桜井 ただ、先生、法律的なところでは、今はもう電子化しても構わないんでしょう。

安田 ある程度。

桜井 ある程度なの。

本田 法律的にはもういいんです。

桜井 「カルテはこのディスクの中に入っています」と言ったっていいのでしょう。

安田 いいんです。ただ、打ち出せることと、改変しないことなんです。

桜井 改変しないことというのは、さっき本田先生がおっしゃった、それができないという、それですか。

本田 それは認証ですから。今は例えばeコマースなんかでいろいろ出てきていますから、認証技術を使えばそれはできますから。裁判対策です。 それは、だから条件どおり入っていますけれども、それは大体クリアできると思います。問題は、誰が入力するかと。

安田 入力ですよ、あくまでも。ただ、私は、最近のヒットは、日本医師会が出した意見書のCDだね。あれはヒットだった。私は、やっぱりあれはすばらしいと思う。

嘉数 あれは非常に便利ですね。

安田 2度目から便利だものね。

嘉数 ええ、もう全然……。本当に便利ですね。

本田 うちは全部LAN化されていますので、8台のパソコンがあって、無線LANで大 体つながっていて、書類等は全部ディジタルになっています。ただ、電子カルテだけはあり ません。書類も全部できるし、意見書も当然できますし。ただ、ばらばらなんですけどね。

大槻 でも、ばらばらでも、患者を中心にした診療所方式として組んでいって、例えば紹 介状の形にプリントアウトするか、あるいはただそれを積み重ねた形のプリントアウトに するか、これはどうにでも格好はできるわけですよね。

本田 そこまで行ってしまうと、やはりシステム化しないと。メリットはでません。入力が合理化できません。例えば意見書はばらばら、あとは診断書などは「文字ピタ」というのを 使っているのですけれども、お互いのソフトで互換性がないですから、結局ばらばらに入れていますので、当然、どうあっても電子カルテを持ってこないと合理化はできないとは思っ ています。

桜井 そうすると、やっぱりこの10年ぐらいは駄目ですかね。

本田 いや、10年はかからないですね(笑)。


地域医療型電子カルテの開発

三原 電子カルテについては、やはり地域の中で動かないと。要するに、地域の中で患者 さんの情報を共有するという目的のために電子カルテを使うという方向性にならないと、 実際は余りメリットはないと思っているのですね。

 もう皆さんご存じだと思うんでけれども、秋山先生がやっている新宿区の地域包括的地域ケアシステム。この前、鶴岡地区医師会にも講演していただいたのですけれども、あのシス テムは医師会にサーバーがあって、その地域の患者さんのデータを全部そこに置こうと。 あとはホームページを見る感覚で全部見ながら診療しようというシステムで、それを丸ご と売るという話ですよね。

 だから、その地域の中で一医療機関が電子カルテシステムを入れるのではなくて、地域 の中でネットワークごとそういうシステムをどんと入れちゃうというのが、僕は望ましい スタイルではないかと思うんです。

 あれは2億と言っていましたけれども、要するに、レセコンを買う医療の値段で、50軒 か60軒集まればその地域の中にと。各医療機関は普通のパソコンだけあればいいと。それ が電話回線で医師会とつながっていればいいというシステムなので、医師会のシステムを 買えば何機関あっても2億という値段は変わらないというシステムなのです。そうすると、 メンテナンスも医師会のだけを変える。医療費の改正もそれだけで済む。

 そういうことで、これからはそういうふうに地域の中にネットワークを組み込んだ電子 カルテという形で、患者さんの情報を共有するための道具として電子カルテを使っていく のが方向性かなと思っています。

安田 それでも、やっぱり入力はかなり大変でしょうね。

三原 秋山先生の中のシステムはすごくよくできていて、ワンタッチで自動的にプッと入 るように全部できているのですね。だからレントゲンなども、ボタンを1つ押せば瞬時に 全部データが入っていくという、そこまで考えられているわけです。

本田 実際のネットワークを使った場合の問題は、回線のスピードなのです。だから、秋 山先生のやっている仕事は非常に正しいことなんですけれども、基本的には、電子カルテ などをオーダーにして組ませると回線に負担がかかるのですね。例えば病院の中で込んで きたときなんかは、かなり遅くなるわけです。だから実際のところはサーバは各病院にな いと駄目です。

 我々が仕事をやっていると、ちょっとでも遅いとものすごくいらいらします。だから 基本的には、院内にきちんとしたシステムを組んで、その情報を吸い上げて持っいく形に しないと。サーバーを1個だけ例えば医師会に置いてやるというのは、実際上は今の回線スピードでも非常に遅いと思います。

 光ファイバーになってどうなのかなと。やはり回線のスピードによって規定されちゃう のかなという感じがしますけど。

桜井 今ちょっと話が出ましたけれども、診療体制、大きな意味での診療支援ということなのでしょうけれども、ITが普及することによって地域医療は変わるかと。そちらの方 も話が出てきて飛んでいったわけですけれども、鶴岡地区で実際にそれを導入しておやり になろうとして、もう始まっているのですか。


地域医療とIT革命

三原 いわゆる情報化いう意味では,ちょうど3年前―僕が開業したのがその1年ぐらい 前ですけれども。つまんない話で,これはオフレコで結構なんですけど−たまたま多少コ ンピュ−タ−を使えるということで,理事の先生から医師会で,そろそろ情報化の時代だ から何かやれということで誘われて入った。

 その頃、情報化といっても、特に開業医になりたてですし、地域の中の医療というのは どういうふうになっているのか全然わからなかったのですけれども、そのときに、安田先 生のときの全員協だったと思うのですけれども、仙台に聞きに来て、あのときがホームペ ージを医師会で立ち上げようという気運が一番盛り上がっていたときで、TCPIという 今のインターネットのネットワークが始まった時期だと思うのですけれども、この講演を 聞いたときに、ではインターネットの技術を使って医師会を中心としたクローズなネット ワークですね。イントラネットというネットワークをつくって、とにかく情報をお互いに やりとりできるようなシステムをつくってみたらどうかということで始めたのが、ちょう ど3年前。

 ただメールだけのやりとりでは余りメリットがなさそうだったので、データベースを連携させるシステムにして、それで最初につくったのが在宅患者さんの24時間連携。在宅患 者さんのデータを医師会のサーバーの中に置いて、それを、その患者さんにかかわってい る医者が、3人とか4人でグループ診療をしているのですけれども、共有すると。ある医 者が、今日ちょっと飲みに行くから診れないよといったときには、ほかの医者に、ネット に入っているからという形で、例えば学会に行くからという形で伝えておけば、すべて患 者さんのデータはそこにあるので共有できる。

 それはずっと続いているのですけれども、人数がなかなか増えないのではありますけれ ども、それなりに有用に使われている。これは、今言ったような電子カルテを使った患者 さんのデータの共有という1つの基本的な形かなと。いろいろシステム上は問題はあるの かもしれないですけれども、そういうことを始めている。

 それから、次にしたのは、地域に限局した医療相談。あの頃もインターネットによる医 療相談というのは、いろいろ問題ありながらやられているところが多かったのですけれど も、地域に限局するということと、患者さんの質問と回答は全部公開すると。メールでの 個人的なやりとりはしないという、患者さんへのサービスとしての医療相談を始めた。

 それから、一昨年始めたのが、医師会のデータをオンラインで参照するシステムを始め ました。それを使うことによって、まだ少ないのですけれども、各医療機関で患者さんの 前にディスプレーを置いて、経時的なデータを見せる。グラフを見せる。それを印刷して 患者さんに渡したりと。将来的にはそういうデータを共有するような形にして、地域の中 でさっき言ったような患者さんの情報を共有していく。

桜井 医師会のデータというのは、検査……。

三原 うちの健康管理センターを持っているので、そのデータです。

安田 臨床検査のデータですね。

三原 70〜80の医療機関は医師会に出しているので、そこのデータをオンラインで見れる というのはかなり便利です。

 それから、今年発表しますけれども、全部の医療機関から、かなり詳しく医療機関の機 能ですね。どんな検査とか、どんな治療が得意だとか、かなり細かいところまでアンケー トをとって、それを冊子につくって全部に配るとか、それをホームページに載せる。

 それから、それぞれのコンピューターの上で、ネットワークを介さなくてもつながるよ うにしたりとか、一般の人にはiモードでも利用してもらうとか、そういう形で医療機関 の情報の開示と。

 さまざまやりながら情報化というのを進めているのですけれども、結局、最終的な目標 は、やはり新宿医師会みたいな、地域の中で患者さんのデータを共有できるようなシステ ムになっていけばいいかなと。

桜井 それは何人ぐらいの会員でやっているのですか。

三原 うちの会員は、A会員が92名、B会員が100名で、ネットに入っているのがA会員 が57名ですから、60〜70%は入っているのですけれども、実際は、毎日、医師会につない でメールを見たりしてくれる会員は、A会員で30人で、B会員も入れると45名。

桜井 オーダリングシステムが医師会全体でできたようなものだ。

三原 まあまあ、数字的には……。

嘉数 それぐらいのパーセンテージだっていいですよ。大したものですよ。

 その平均年齢はどのぐらいですか。

三原 会長の先生とかはもう60を超えているのですけれども、結構やってくれて。


IT革命と宮城県医師会

桜井 嘉数先生、三原先生の1つのサンプルがあるのですけれども、先生の目指す宮城県 医師会ネットワークの……。目標が違うのでしょうけれども。

嘉数 まず1つは、宮城県医師会というよりも、これからは県単位とかというよりも、や はり郡市単位だと思うのですよね。ところが仙台の場合は非常に大き過ぎて、仙台1つで どうのこうのというのはなかなか大変です。100万ですから。鶴岡のように100人のやつだ とまとめやすいのです。

 だから仙台の場合だと、八幡町周辺とか、学校地区周辺とかというふうな形でどうする かという話になってくるわけですよね。ですから、そういうふうな格好だと意外と、みん なでやろうやということになると、まとめやすいと思うのですよね。

 先程本田先生が、電子カルテは非常にハードルが高いと言ったけれども、本当は理想は 電子カルテなのですよね。電子カルテはどうしても、ハードルが高くても越えなければな らないことだと思うのですね。

 医療の情報はカルテから始まるということなものですから、どうしても電子カルテはク リアしなければならない。そのためにはいろいろな問題があるし、インターネットを使っ たりいろいろなこともあるし、今言ったように速度の問題とかもありますけれども、これ は本当はあと3年ぐらいで何とかなるのではないかと、実はそういうふうに考えている。

 その3年というのはどうということもないのですけれども、例えば光ファイバーが来年 あたりからどこでも通ってくるようになってきますし、そういう速度の問題などもクリア されてくるだろうと。あと、各社いろんなところで電子カルテのモデルがどんどん出てき ているということもあるし、個人的なものも出てきている。そういう気運が高まっている ということが1つ。

  もうひとつは−夢を話そうというので夢を話しているわけですが−そういうことがあ りまして,本田先生などが管理している,整形外科などのメ−リングリストなんかでも, そういうことをやっているよというのがいっぱい出てきます。

 あと、やっている人の年齢が若くなってきていますね。大体40代以下ですね。そういう ふうな人たちが、もう子供のときからコンピューターをいじくっている連中の年代に少し ずつなってくるだろうということもありまして……。  そんなふうに考えております。

本田 よく言うのですけれども、ネットワークというのはどういうふうな条件があるかと。

 3つあるのですけれども、第1は、二次医療圏を単位としてすべての病院が参加してい ないと役に立たない。第2が、すべての一次情報はディジタル化しなければいけない。第 3点が、すべての病院は常時接続して、できるだけ速い回線でなければいけない。これが できない限りは使い物にならない。

 これをやっているところは、まだどこもございません。これができない限りは恐らくは 使い物にはならぬだろうと。ハードルは極めて高いということですね(笑)。

桜井 安田先生、それに反論はありませんかね。

安田 厳しいね。


やっぱり電子カルテ

大槻 要するに、医療の質を高める、あるいは医師の社会というのは非常に閉鎖的な環境 にあるわけですよね。それを何とか打開しようというのが、要するに医療情報化なのです。 要するに「見える医療」にする。

 ですから、今言ったように、電子カルテにしても何にしても、そういうデータベースを つくって、例えばネットワークで見られる。セキュリティの問題とかいろいろありますけ れども、そういうことをすることが、より良い医療をさらに提供するので。

 ですから、余り自分でハードルを高くしないで、できるところからやるというのも1つ の手ではないかなという気がするのですね。

本田 実際やっているわけですけれども、基本的には、例えば中核病院が入ってくれなかったら、開業だけだったら……。病診連携というのは基本的には診療所と診療所、あるいは病院と診療所の方が多いわけ ですから、回答がなかったら役に立たないわけですね。

大槻 まさに今、日本医師会の医療革命が、要するに今までだと病診連携とかいろいろあ りますけれども、それが本当に、こういうふうなシステムを使うことによって、例えば診診プレーとか病診連携というのが出てくると思うし、それから遠隔医療を実際にやっていると、やはり1つの病院ではもうカバーできないのですよね。

 ですから、例えば地域支援病院とかいろいろあるから、そういうところを核にして1つ のネットワークが多分、近い将来できるのではないかと、私は夢を持っています。


地域医療支援病院を中心としたネットワーク

桜井 そういうサンプルは、日本にはまだないの。

本田 いっぱいありますよ。加古川とか、新宿とか。

桜井 新宿も大きな病院が核になってやっているのですか。 大槻 大きな病院は、やはり国立医療センターでしょう。

桜井 ああ、そういう意味。

本田 あれは一番最近できたシステムですから、一番、概念的にはしっかりしていますね。

安田 理念的にはあそこが一番進んでいると思うね

本田 実績は、まだ稼働したばかりですからあれですけれども。

大槻 我々大学病院も、そういう病診連携のためにサーバーをイントラネットで何台か用 意したのですね。ところが実際は、やはり病院の方の開発に手をとられてしまって、なか なかそこまで手が回らない。 結局、今はそれは表向きのインターネット用のサーバーとして使っているのですが、ゆ くゆくは、また新たにバージョンアップするときには、その辺をやはり重点的に整備して いこうかなという考えは持っていますよね。

桜井 本田先生、今度、包括的地域のあり方というシンポジウがあれしますけれども、先生が先程ちょっとおっしゃいましたけれども、中核病院みたいなのがそんなに入っ てこなければさっぱり役に立たないと。

本田 システムというのは、どこか弱いところがあると、そこに引きずられてしまうわけ です。例えば、横浜は今、病院でケアネットの中で組んでやっているのですけれども、開業医が入ってこなかったら基本的にできない。逆に開業だけで組んでも駄目だと。二次医療圏で組まないとやはり役に立たないということがあると思うのですね。

安田 だけど、三原先生みたいに何人かで組んで在宅ケアをやるというのはいいのだよ。


地域医療ネットワーク-それはバーチャル総合病院

本田 それは我々は「バーチャル総合病院」と言っているのですけれども、気の合った仲 間、例えば整形の医者と内科の医者10人ぐらいで組んで、それでネットを組めば、グルー プ診療がネットでできてしまうわけです。常時接続になっていれば、脇で診療しながら、この皮膚疾患は何だっけとちょっと書いてメールを送って、5分で返ってくる。そのくら いのスピード感覚であれば、ほとんど脇で一緒に診療をやっているのと同じことだと。

 だから、まずインターネットを常時接続しなくてならないというのは、こういうことな のですね。ほとんどチャット状態で仕事をしていれば、総合病院で仕事をしているのと同 じことになってしまう。そこら辺からまずやっていくと、これは非常に面白いことになっ てくるのではないかなという感じがします。 大槻 インターネットの環境というのは割と整備されてきて、スピードにはいろいろ問題 があるのだけれども、例えば同級生同士が……。

 やはりいろいろな専門家がいるわけです。内科医が患者を診て、電子カメラで同級生の 皮膚科の先生に送ってやって返事をもらってというような形で、既にうまく使ってやって いる人はいるのですよね。

本田 それが1分か2分でできれば、実際の病院よりもっと速いということですね。

大槻 そうですよね。

本田 だから、はっきり言えば、実際の総合病院よりもバーチャルの方が速くできる可能 性がある。そうなればグループ診療ですよね。

 だから、例えば仙台の先生とグループ診療できるわけです。極端に言えば、仲間になれ ば。そういう可能性はありますですね。

 だから、グループ診療が地域全体、あるいは日本全国に広がってしまったという概念ができると思うのです。夢を語る会ですから(笑)。


バーチャル医局

嘉数 バーチャルというのは、バーチャルと現実というのが実はありましてね。むしろバ ーチャルの病院というよりは、「バーチャル医局」というふうな感じの方が、僕は表現と してはいいのかなという気がしているのです。

大槻 もっと気軽にという意味でですね。

嘉数 そうです。ドクター同士がいろいろなことをお互いに話し合える。そして、それを 自分の患者さんを目の前にしてできる。

 病院というのは、例えばそこで手術をしなければならないなどとなってしまうので、バ ーチャル医局という……。

本田 ただ、実際の仕事になってくると、やはり病診連携の問題になってきますから。そ うなると、例えば市民病院の先生と臨床的に対話できる方にしていかないとまずいという ことはありますよね。

嘉数 あと、バーチャルでできることと、できないことの区別はきちっと考えて、現実の 問題として見極める必要はあると思いますね。

本田 今やっている診療の9割ぐらいはバーチャルにもっていけるだろうと思っています けれども。あとは実際に患者を送ればいい話ですから。

大槻 非常にこれからは有効な手段です。今言ったように、24時間常時接続ということが 条件ですね。

桜井 24時間常時。うちの方の病院は、24時間、コンピューターそのものが動いていませ んよ。

本田 先生、それが常時接続なのです。常時接続でなければネットワークでないですから (笑)。常時つながっていなかったらネットワークではないです。

安田 その辺はすぐ進歩するよね。数年でかなり進歩する。

本田 例えば、うちの医師会でパソコンを100台配ったのです。無料で皆さんに。検査配信だけやっているわけですね。どこにあるのかといったら、結局、倉庫にあったり、廊下にあったり。結局、お医者さんの目の前にないといけない。1台では無理なのです。

 総合病院はそうですよね。総合病院のシステムというのは、医局にもある、外来にも5 台ぐらいある。どこにいてもやれると。結局、そのシステムを医師会でも組まなくていけ ないのです。

 要するに、自分の家の中にLANを組んで、それこそ電子カルテを置いて、それで地域 内の病院がつながれば使い物になるわけです。病院と同じですから。そこまでいかないと 使い物にならないわけです。だから無茶苦茶ハードルが高いのです。


医学生のIT教育は今

大槻 でも若い人は、かなりこういう環境に慣れてきているということはありますよね。 それから大学あたりで、一部の先生は学生のレポートをインターネットで提出させたり、 講議の資料を自分のところのサーバーで、学生がそこへアクセスして自分で引き出すとい うような状況になりつつあるのですね。

 それで、東北大学の学生も、ちょうどここ3年間くらい、4年目の学生に講議する機会 があるものですから、どの程度みんなインターネットを使っているのか調べていると、3 年前でプロバイダーに個人的に入っているというのが3分の1くらい。インターネットを 使った経験がある、とにかくどこかで使ったことがあるというのが6割から7割。それが、 ここ3年間で、今度の4年生は7割くらいがプロバイダーに入っているのですね。そして 95%ぐらいが何らかの形でインターネットを使っている。それからEメールも大体同じ割 合で増えてきている。

 ですから、この人たちがあと2年たつと卒業していくので、環境的にはかなり整備され つつあるかなという印象を持っていますね。

桜井 だったら、その人たちが世の中に出ていく頃には、本田先生が危惧するようなこと はなくて、倉庫の中に置いておくなどということはなくなりますか。

大槻 それはあると思いますね。ただ、電子カルテに対する、要するに完璧なものを望む か……。

安田 ちょっと次元が違うのだね。

大槻 部分的なもので満足するのかという、その差はやはりあると思いますけれども、た だ、ここ2〜3年くらいでかなりそういうところへ行くのではないですかね。

三原 ただ、うちの医師会などもそうなのですけれども、コンピューターを使えるにもか かわらず、医師会のネットワークには入りたなくい、かかわりたくないという人も、結構 若い人に多い傾向もあるのですよね。  50代を超えた人の方が、やれないけれども、そういうことに熱心になろうという気概が ある。そういう傾向はあると思います。

本田 うちもそうなのですけれども、基本的に開業してまもない方、あるいは若い先生と いうのは、結局、価値感が多様なのですね。ある意味で専門馬鹿的なところがあって、視 野がはっきり言えば狭いところがあって、地域の何とかというのはどだい意識していない ということがありますで。  40、50になってもまれてくると、先輩方に教育されて価値感が練れてきて、それなりの、 まともな医者と言えばおかしいのですけれども、地域医療に関して意識する医者になって くる。

 だから、医師会のメ−リングリストなどですと、意外と20代、30代のお医者さんが入っ てこない。

嘉数 これはどこでもで、僕らの若いときなど、医師会なんて全然頭になかったというか。 あと、医会などもそうです。最初はノンポリですよ。だんだんと引きずられて……。

桜井 だんだん理解してきたぞ。コンピューターというのは1つの手段であって、根本的 にはそこなんだ。


医療ネットワークの参加イコール医師会活動の理解

嘉数 もちろんそうです。

本田 最初に言ったように、ネットワークというのは人のつながりですから、ハードはど うでもいいわけです(笑)。

桜井 そういうことですね。

安田 だから、考え方ですよね。

本田 結局、我々が今やっているのは、とにかくネットに入れと。毎日教育するからと。

桜井 なるほど。早く言えば、ネットに入る、イコール医師会に入るようなもんだ。した がって、医師会活動を理解できなければ、ネットに入ったって違うところに使うわけだ。

三原 そうですね。

本田 大事なことは場をつくることなのです。結局、ネットというバーチャルの場があっ て、そこで毎日討論するわけです。その中でとにかく読むわけですから、どんどん価値感 が均質化してくるわけですね。それで組織の一体化ができてくるだろうと。

 とにかく、顔を見たら「入れ」と。これしかないと。あとは当然、ハードを買わせて、 その中で教育していけばいいわけですから。

桜井 わかりました。近い将来、地域の中に、そのハードルを越えてネットワークができ るでしょう。これは間違いありません。

 時間もありますので、次は、医師会は変わるだろうかという方に話を進めたいと思うの ですけれども、宮城県医師会でそちらの方を中心になってやっていらっしゃる嘉数先生、 いかがでしょうか。医師会は何か変わるところがあるでしょうか。


医師会はどう変わる

嘉数 1つは、先程もちょっと話をしましたけれども、医師会の役割分担といいますと、 例えば日本医師会、県の医師会、郡市医師会と、医師会の役割分担というものが、多分は っきりしてこないとまずいと思うのですね。

 先程もちょっと述べましたように、例えば今、若い方々が医師会に入らない、医師会離 れというふうなことをよく言われておりますし、医師会に対する知識の不足、あるいは目 先の損得を考えて、どうも医師会に対する理解が足りないということで、インターネット などのメーリングリストなどを見ると、医師会に対する批判が非常に多いのですね。

 それは何かというと、今言ったような、そういう方をきちっと医師会が取り組んで、先程か ら出てくる、場を設けて理解をしてもらうというふうな方策をきちっと持つべきだろうと 思うわけです。

 例えば医師の自浄作用であるとか、生涯教育の徹底であるとかという話で、日本医師会 の仕事はこういうものがありますよということは確かにありますし、県の医師会としては ではどういう役割があるか、郡市医師会としてはどういう役割があるかと。

 これからは、私は思うのですけれども、組織から個になるというふうな時代ですので、 個それぞれの考え方を持って、そして立派な考え方も、特にドクターというきちっとした 一国一城のあるじの集まりの中では、その個というのが非常に強い核なものですから、そ こが主になってくるだろうということが1つ。その主になっている個が第1番目に入って いる郡市の単位というものが、きちっとしたものになっていかないとまずい。つまり、そ この中で、情報ネットにしても、仕事にしても、医療にしても、何でもそうですけれども、 仕事を積み上げていかなければ駄目だろうというふうな考え方だと思うのです。

 いわゆるトップダウンで、日本医師会からこうだよ、ああだよ、どうのこうのだよ、県 の医師会から郡市医師会にどうのこうのというふうな時代では、僕はないだろうというふ うに思っております。

 そういうことで、まず医師会というのが、先程言った総合情報ネットワークシステムと いうのがありますけれども、多分、県の単位ではでき上がった。今度は郡市医師会ですよ、 その次は個ですよと言っている意味というのは、そこまで考えて構築というものを考えて いるのだろうと僕は思っております。

 そういうことで、あの委員会でも僕自身は、日本医師会から県の医師会、県の医師会か ら郡市医師会に順繰りにトップダウンで流すよりは、それも必要なときもあるけれども、 日本医師会から直接、個人の会員にぽんぽんと情報が常に入るようにすべきだろうと。そ れも必要だろうというふうな主張はしております。

 そういう形で、医師会というものも、そういう意味でひとつ変わっていかなければならないのかなというふうにも思っております。まずはその辺ぐらいですね。

桜井 ネットワークがあれすれば情報はみんなが共有することができますけれども、あと、 医師会の組織の中身は変わりますかね。

本田 明確に変わると思います。

 医学情報というのは、今言った上からトップダウンの情報とかよりも、先ずは地域医療の中で消費されるものですから、まず地域の中できちんとするべきだろうと。患者情報とかは 地域がメーンであると。

 あと、その上の組織というのは、基本的には政治や保険情報とかをうけるだけにつき合 うのです。日医から個人までダイレクトに来るわけですから、基本的に県医というのは何 だと。調整機関でしかなくなってしまう。そこら辺の組織のすみ分け論ができてくると思 います。むしろ県の医師会の存在意義が薄くなる可能性は高い。


組織のすみわけ、統合が必要

本田 まず、地域医療が絶対大事になってくるわけですから。ネットワークは二次医療圏単位で、組むべきで、現在の郡市医師会はちょっと多過ぎるのではないかと。今は960ぐらいあ るわけですけれども、あれはやはり二次医療圏単域でまず整理すべきだろうと。介護保険も 広域になってきていますので、少なくとも介護保険単域ぐらいで医師会を統合してしまった 方がいいのではないかと。 まず医師会の経営基盤をよくしなくてならないし、医師会も地域医療に深く関わりだして、 規模が小さいと、人をだしずらい。人材がいない。ある程度の規模以上の医師会にしてし まった方が話は早いだろうと。その中でシステムを組むべきだろうと思うのですね。金も使 うべきだろうと。

 まず地域の医師会を統合して、きちんと組織すべきではないかと。960を100ぐらいにすべきではないかと思うのです。要するに郡市レベルですね。青森県だったら3つぐらいで 十分ではないかという感じはしています。あくまでネットワークは患者さんの動きに合わ せるべきである。

嘉数 その考えに僕は全く賛成で、実際、僕は情報委員会とかで県の医師会のをやってい ますけれども、例えばある郡市医師会では、「仙台市医師会はいいですね。役員になる人 がいっぱいいて。私のところは、役員になってくれと言うと、なる人がいないんです。委 員なんかになる人はもっといないんです」。

 そうすると、1つのことをやろうとしたって駄目なんです。同じ先生がずっと20年も理 事をやったりなどしているわけです。何かやろうというと、その先生しか動かないとなっ てしまうわけです。そうすると「大変だ」という話になってしまっているわけです。これ は現実の問題ですね。

 そうすると、今言ったように、郡市の統合というか、合併というか、全体が合併しなく ても、ある部分は一緒にやろうとか、そういうふうな方向でやる統合。今は銀行の統合と か保険会社の合併がはやっているけれども、郡市もそういうふうにして、ある意味での合 併が、これはやはり医師会を強くしていく1つの……。

本田 人材が少ないのですね。

嘉数 そういうことです。人材がいないのです。その人材を強くするために必要だろうと いう、先生の意見と全く同じです。

本田 広域化した場合のデメリットは、基本的には会議が大変なわけです。2時間かかっ て来るときがあるわけです。それはバーチャルでやる。メーリングリストで会議ができ てしまうわけですから、集まるのは年に1回、忘年会のときだけでいいと。

あとは毎日、 討論すればいいと。

嘉数 ゴルフするときとかね。

本田 そうです(笑)。

桜井 安田先生、いかがでございましょうか。


簡単ではない統合-障害は何か

安田 おっしゃっていることは実によくわかるんですね。ただ、問題点はやはりちょっと あるかなと思うのは、例えばこの町の人と隣の町の人と、地域事情も違うですよね。それ をどうやって……。

本田 それは、あくまで二次医療圏単位で患者さんの動きに合わせるべきであろうと

安田 先生おっしゃるのもわかるのだけれども、例えば成人病検診なら成人病検診は、この町とそっちの町では違っていたり、いろんな問題がありますよね。だから、それらをどう統合していくかという問題などは……。

嘉数 僕がさっき言ったのは、統合できるものから統合していったらどうかという話なのですね。

安田 だから、いいと思うんです。だから、例えば仙台市医師会は100だけど、その中にブロックがあって、そのブロック ごとの地域事情で動いている。そしてそれを吸い上げてやっているという状況になります から、そのことは、会費から言っても、小さい医市会は会費が大変ですからね。維持する ことさえ大変なんだから。20〜30人の医師会というのはふうふう言って運営しているわけ で、だからそういう合理化は当然起こるだろうと思いますね。

桜井 三原先生、先ほど先生のサンプルをお話しになりましたけれども、それはやはり、 ある程度、地域が1つになって、その間で先生がおやりになっていると。それとも、ばら ばらでやっているのですか。

 例えば何郡何町の中で、先生がやっているグループ診療みたいなのがまとまっているの ですか。それとも、それこそ二次医療圏ぐらいにばらばらになっていませんか。

三原 あのグループは、ある程度、地域でグループを組んでいます。患者さんがある地域 に固まっていると、それを何人かでサポートするという形になっているので、そのグルー プはある地域に固まっています。それが3つとか4つあるということです。

 例えば鶴岡地区だと、海の方に温海というのがあるのですけれども、温海地区では3人 ぐらいでグループをやっているとか、鶴岡の北の方で3人ぐらいでやっているとか、そう いう形ですね。 桜井 診療の場合はそうなっていくのだけれども、こと医師会の組織も、どちらかという 管理システムとなる。そうなってくると、今、本田先生がおっしゃったみたいに、ある程 度広いところで、先ほどの先生の表現をかりると、バーチャルでもって毎日討論していれ ば、集まるのは、忘年会に顔合わせはちょっと極端かもしれないけれども、月に1回ぐら いゴルフで顔を合わせるぐらいの組織になりますかね。

安田 実際には距離は余り問題ではなくなってきているというふうに思うのですね。問題 は、さっきから話が出ている健康保険だけではなくて、いろいろな行政との関連がありま すよね。行政区画というのがまた存在するわけで、それにどう医師会が対応していくかと いう問題がありますから。

 だから、皆さんが合併しようやといって簡単にすっと合併できるかどうかというのは、 なかなか難しい。

本田 介護保険が今は広域化してきているでしょう。自治体が受け切れませんから。あれ に合わせて、ある程度、スケールアップした方がいいのではないかなと。

安田 おっしゃるとおりだね。

本田 結局、人材なのです。ネットワークを組もうと思っても、例えば青森ですと、八戸 と青森と弘前は何とかできているのです。ところが郡部が全然、人材がいないのです。 「先生、ちょっと来て教えてくれや」と。だから、「金のない人はこっちに入っち ゃった方が早いんじゃないの」と。そういう話になってしまうわけですよね。

桜井 すべての先生方の、そういう意味での情報社会での全体のレベルが上がればまた話 は違ってくるのだと思いますけれども、でもこの5年ぐらいの間には、少なくも行政とは 一緒に動くのではないですか。そうすると、行政もこうなってくる(手で示して)のでは ないですか。

安田 例えば、ある町とある町がすぐ合併するかといったら、それはなかなか難しいでし ょうね。

桜井 仕事では合併してきているわけでしょう。

安田 いわゆる協同組合みたいな形で仕事をしている部分はたくさんありますよね。

本田 急性期病院の合理化が始まりますから、基本的に在院日数がどんどん短くなって きますですからね。アメリカの場合、10日になれば、基本的に急性期病院などは人口50 万に1軒でいいわけですね。そうなってくれば当然、町立クラスの病院などはどんどん 診療所化してきますから、いや応なしに統合化されてくると思うのですね。

 要するに、あらゆることは二次医療圏で考えるほかなくなってくる。行政もそうだろう し、医療は全部そうなる。本当は二次医療圏でまとまってしまった方が早いと。仙台医療圏の中で考えてしまってやっていくほかなく なってくると思うのですね。そうでないと動かない。


医師会も変わる

桜井 すると、医師会そのものの組織も多分変わってくるのではないかなということが予 想されるのですけれども、今までで触れていない、これは大きく変わるよというところは 何かありませんかね。医師会全体で何か1つの仕事をする、要するに医療の仕事をするな どというネットワークというのは余り僕は聞いたことがないのだけれども、そちらの方は どうですか。

嘉数 先ほど僕が言った1つは、情報を使ってマスコミ対策が何とかならないかと。これ は昔から言っているのですけれども、結局、日経だと日経新聞があるでしょう。ジャイア ンツは読売新聞があるでしょう。ああいう個ごとに大きなメディアを持っているでしょう。 それに対して日本医師会というのは何も対抗できない。朝日新聞が言うと、朝日新聞に抗 議を言って終わり。こういうふうな状況で、では日本医師会はどうするのだと。

 日本医師会が一番いいのは、では新聞社をつくれと私は昔は言ったわけですけれども、 これはオフレコになってしまうけれども、ではどこかを買収してやるかという話になって しまうけれども、結局、そういう話で、マスコミに対抗するにはそれしかないと考えてい たのだけれども、ただ、やはりマスコミに対する対抗というのは、これからインターネッ トが1つの大きな手法になるだろうと。

 手法にしたいなというふうな希望があるのですけれども、ただ、どういうふうな手法に なるか。みんなでやるしかないのか。どういうふうにしたらいいのか。そういうふうに思 っていつも黙々と考えていたら、つい最近、本田先生がメールの中でそれを言い始めたの で、同じことを考える人がいるものだと実は思っていたのだけれども、そいつをどうした らいいかと思って。

本田 整形外科医のホームページ上で、例えば朝日新聞がこう書いたと。それに対して反論を開院の先生方に書いてもらう。それをずっとアップしていたのですけれども、それが 固まりとして出ると、なかなかこれは批判ばかりなのですよね。ホームページとして見た場合に、批判ばかりが並んでいる。

 朝日新聞の批判とか毎日新聞の批判とか、ホームページで見ると、ちょっとこれはきつ いのですよね。100個ぐらい情報があって、その中で批判が入っているのはいいのですけれども、100個のうち100個が批判ですと、これは医師会のホームページかと。あそこら辺 が、情報というのは確かに難しいなと。

桜井 それは、広い意味では一般への広報活動ということになるわけです。

安田 だけど、例えば新聞だとかテレビだとか、そういうメディアに対抗できる力というのは大変な問題だと思うのね。


広報活動とIT

本田 確かに、なかなか厳しいです。

安田 これは日本人の特性でもあるのですね。お役所が発表したことは一生懸命聞くので す。ところが民間が言ったことを聞こうとしないのです。  今から20年以上前の話ですけれども、何とかして対抗するために記者クラブを日本医師 会につくるということで、厚生省に記者クラブがあるわけです。日本医師会にも記者クラ ブをつくったのです。そこへ居つかないというのだね。

 役所の記者クラブは、とにかく役所のことを流している分には彼らは絶対安全なのです よ。ところが民間のことを流したときには批判が来るものだから、危なくてしようがない という問題が1つあるわけです。日本人の官尊民卑の精神が、ジャーナリズムが最高です よ。

桜井 そこをブレークするものが何かありませんかね。

安田 それはもうさんざん議論したけれども、うまくいかない。

本田 基本的には、我々が今やっていることは、例えばメーリングリストに、官僚も入っている、新聞社も入っている。そういうところでの、ある程度プロパガンダを意識した発言はしています。

 例えば混合診療とか、あるいは無診療の問題とか、わざと話すわけです。ホームページ上でもそういうこともやっています。

安田 問題は、一般の住民の人たちに本当の意味での医療の困っている点などをきちんと 理解させるということの方が大切なのだけれども、それはジャーナリズムは書かないわけ です。しゃべらないわけです。だから知らないときているわけです。知らないのをもとに して議論をするからおかしな議論になってしまうので。そこなのですね。

本田 一般向けにはホームページが一番、やはり有効な方法になると思いますけれども。

桜井 先ほど嘉数先生がおっしゃったように、新聞社を1つ買い取れと。

大槻 広報活動に、そういうデータを今度は日本医師会もいろいろ持つようになってきた から、そういうのをどんどん公表して主張すべきなのですよね。それが今までの医師会の 活動の中で一番抜けていたところではないかなと。要するに、医師会の内部にはいいのだ けれども、医師会以外の、表に対するね。

桜井 日医総研のは、やはり相当のインパクトですよ。ITと関係ないかもしれない けれども、これも1つの一般への……。

大槻 いや、ITと大いに関係ありますよ。そういうやつをどんどんインターネットの広 報に載せていくという……。

嘉数 我々が100の努力をして、あいつらが一発ぽこっとやっただけで、その100がゼロに なってしまう。その努力がもとにぎゅっと引き戻されてしまうのです。それが物すごく噴飯物で困るんですよ。

 いかにいいことを国民や市民にやろうとしていても、それがまたガーンともとに引き戻 されるという、それが困る。

桜井 ありがとうございました。そろそろ時間も来たので切り上げたいと思いますけれど も、2〜3日前の新聞を見ますと、今度、電子モールというのですか、国のあれが3,000 万世帯だかに導入されて、とにかくうちの前にはファイバーが届くような時代が間もなく やってくるらしいので、あとは我々がいかにそれを利用してこの世の中を変えていくかと いうようなことも問われる時代になってくるのかもしれません。

 うんとたくさん夢があるような、それと、必ずしもそれがいい方向にばかりに行くとは 限らないというところもありましたけれども、近い将来どう変わるかということで先生方 に占っていただきました。できるだけそうなるように我々も努力したいと思います。

 本日はどうも御苦労さまでございました。


本文は宮城県医師会報2001年1月号(通巻660号、P18)にあります。なおこの文は校正前であり若干本文と異っております。お詫申し上げます

なお引用許可はいただいております。

2000年12月29日

本田整形外科クリニック

本田忠