新たなる医療情報システムの構築に向けて
                   第一次医療情報システムの反省

○はじめに 全国医療情報システム連絡協議会第16回定例会議 第13回地域医療情報ネットワークシステム研究会 「全会員が参加できる地域医師会の医療情報ネットワークシステム」 司会 京都大学医学部 教授 高橋 隆 幹事 (COMINES代表世話人) 空地 啓一  今回の会合は各地で当初のパソコン通信による医療情報システムから、次世代の インターネットを基本としたシステムへの移行期における、いままでのシステムへ の反省と今後の方向付けという意義のある会合であったと思われる。
○医師会情報ネットワークの現状  第一次医療情報システムの多くは、1980年代中葉に構築された、いわゆるパ ソコン通信による検査配信を主として、それに若干の掲示板をつけサーバ集中型の システムであった。現在インターネットを基盤とした分散型の第2世代のシステム に徐々に移行しつつあるが、大幅に人間が変わるわけではなく、状況も大きく変わ るものではない。若干の成功例を除き、多くの医師会ネットワークが、あいかわら ず低調なことも残念ながら事実です。
○従来の医師会情報ネットワークについて  日本の医師会の従来のネットワークは検査センターを核とした、検査配信システ ムを構築することで発展してきました。 その結果 1)検査配信が主であるため、メールの交換は非常に少ない。  検査配信システムを持ってきたゆえに、情報受信及び発信がすくないということ となりました。医療情報システムとしての発展は、結果として阻害されました。  もとより医師の習熟度はありますが、より構造的な問題が大きいと思われます。 検査配信システムの欠点は a)エンドユーザにとっては検査配信のみの単能のシステムでしかなかった。 当方の若い理事の中には情報あるいはインターネットなどはどうでも良い。検査 だけ馬鹿チョンで出てくれれば良いといっている方がいます。インターネットは したくない。検査だけ出てくれば良いとのことです。 b)端末は医院内では多くは事務におかれた。  検査配信に使うと、院内で事務が、あるいは看護婦が朝一回受信するのみです。 回数が少ないところは数日に一回しかアクセスしない。横着なところは、軒数が多 いにもかかわらず、週に一回しかアクセスせず、バッファがいっぱいになりオーバ フローでしょっちゅうトラブルという旧システムでの笑えない話もあります。サー バ集中型ネットワークであり、掲示板なども当初作ったまま、デザイン変更できず 使われなくても最後まで残り、機種異存も激しかった。 2)パソコンの配置場所がすべての問題の元凶。 結局検査配信をメインにもってくることによる最大の欠点は、医師が使わなくなる ということです。医師会からのおしらせは当地ではほとんど全部事務が、pcから 印刷して、毎日医師にあげるという形態です。医師にとってはPCを利用する意識は 全く育たない。ただのファックスの使い方しかしない。医師が情報発信したりうけ たりするには医師が一番いるところ、院長室や診察室に常にpcが存在することが 必要です。したがって、メールの交換をするには、事務にいって打ち込んでおいて という方が多いようにお見受けしています。これはインターネットでも事情は変わ りません。医師会からただのPCが配布され、もめるのは置き場所だけ(スペースが ない)医師会データの受信で医師がテクニックに悩むことはない。講習会に出席す るのは事務ばかりという状況になります。医師は紙でもらうだけですから。 従って検査配信をしているかぎりは院内LANでもしないかぎりは状況は全く変わら ないと思います。これは非常に狭き門です。
○医療情報システムの構築を図るべき 構築するのは医療情報システムであり、単なる検査配信システムではないはずです 医師が直接情報を受け取り、情報を発信しうるような院内のPCの配置をする必要 があります。しかし同時に検査配信をするためには、院内に複数のPCが存在しな ければ成立しないことになります。ここらが構造的な欠点と思われるゆえんです。 そのためにパソコン通信時代のBBSであろうと、インターネットのメーリング リスト時代であろうと状況は変わらないと思われます。 お金のでどこを作るためには検査配信をして、検査センターからお金を出し、し かしそのために、医療情報システムは育たなかったと考えるのが妥当かと愚考い たします。現在もつづいている袋小路です。インフラが育たない限りかわらない 状況ではあります。普及率はあがってきているのでパソ通時代より、状況は好転し てはいますが、本質的にはかわらない。 いずれにしても大切なことは、医師会事務の体力の強化です。すべての通達を すべて末端会員まで流すことであります。組織の引き締めには一体感が絶対必要 であります。国や日医、県、市からの通達を、各レベルですべてデジタル化し、そ れを流すシステムをまずきちんと作っていただきたい。病診連携や、その他は 各自の医師に前にPCさえ存在すれば、あとは教育のみで、それなりになってい くと思っています。
○現在の分散型ネットワークの考え方  コンピュータの進歩により、従来は大型汎用機で行っていたサービスを、より小 型な機種で行うことができるようになりました。これをダウンサイジングといいま す。その結果、大型のコンピュータは小型になり、サーバに機能が集中していた 中央集中型のシステムが小型パソコンに機能が分散しました。分散型ネットワーク です。サーバも大型汎用機からパソコン・ワークステーションに代わりました。  ダウンサイジングの本質は,情報システムが「集中」から「分散」へと変わって きたところにあります。特徴としてあげられる言葉は,「分散」に加えて「情報分 散」,「情報無秩序化」,「コストダウン」の3つです。 1)ダウンサイジング 性能が向上した小型コンピュータによる経済面の効率が向上。 初期投資が少なく、台数を増やすことが容易である。 拡張性と柔軟性に優れたシステムを構築できる。 分散処理システムによる、故障の際の被害の極小化。 システムの変更に対する対応の柔軟性。  また当初見込まれていたコストダウン,利用者ニーズを満たす,といったことに とどまらず,コンピュータの一人一台時代の基盤を創りあげるといった役割も果た しました。また,それによって情報システムも大きく変わったといえます。 2)オープンシステム  ポータビリティ (異なる機種のコンピュータでも同じソフトウェアが使える), インタオペラビリティ (異なる機種のコンピュータでもプログラムやデータを相互 運用できる), スケーラビリティ (システムをスケールアップしても同じソフトが そのまま使える) の三条件を満たすシステムをオープン・システムと呼ぶ。現在, このオープン・システムの定義を厳密には満たさないものの, WS やPC の市場で は公開された規格に基づく製品が複数のベンダーから提供されている。 オープン化の進展によりWS やPC のコスト・パフォーマンスは飛躍的に向上してい る。ベンダー独自のシステム (プロプライエタリー・システム) を使うメインフレ ームの世界と違い,オープン化の進んだWS やPC の世界ではユーザーは既存の資産 にとらわれず,計算機本体に加えソフトウェアや周辺機器も市場に出ている製品の 中から最も優れた製品を選択し,組み合わせて使うことが可能である。 3)拡張性,柔軟性 メインフレーム集中システムでは、状況の変化に合せたシステムの拡張を行なうこ とは難しい。これに対してダウンサイジング ・システムでは負荷の増加に合わせ ,柔軟に処理能力を増やすことが可能となる。これまで3年先,5年先の処理能力に 投資していたものを,負荷の増加に合わせてその都度投資が行なえるので,投資効 果の面でもメリットは大きい。
○現在の開発環境 これらの結果起こってきた事態は ○アプリケーションは組み合わせるだけでほとんど出来上がる。  現在の分散型ネットワークはサーバ集中型システムの明白な欠点。独自アプリケ ーションを開発し、使いずらい、容易に変更できない、変更にお金がかかる等のた めに状況の変化についていけず、結局高い金を払ったに関わらず、つかいものにな らないという、欠点を克服するためにできてきたものです。アプリケーションは、 市販の製品の中から適当なものを選んで使えばよく、アプリケーション開発という 概念は、旧来のサーバクライアントシステムの発想で、ほとんど死語です。現在は 、エンドユーザが簡単にアプリケーションが組める時代です。システムは最初にが っちり作るものではなく、必要に応じてエンドユーザがほとんど毎日改変していく ものと理解しています。従来のサーバ集中システムのようにアプリケーションを一 回作ったら終わりという世界とは異ります。 ○独自ソフト、独自開発ソフトはできるだけ使わない またシステムはシンプルであることが大切で、できるだけ使用シフトを少なく、 汎用品を多用すべきと思っております。独自開発ソフトは減らすべきです。それは オープンシステムを作ることを阻害します。現在は、全国レベルで、横のネットワ ークができつつあります。地域内だけで完結するものではありません。したがって 、広範囲な視野を得るためには、積極的にいろんなネットワークへ入る必要がある と思われます。たとえば、現在のデファクトスタンダードである電子メールを使い こなせれば、全国のいろんな情報ネットワークで討論できます。十分にPCに習熟 した方ならどんなソフトを使用しても問題ないとは思いますが、残念ながら、医師 会の大多数の先生方はPCにはそれほど興味もなく、面倒でなければよいという方 々が多いと思われます。会員の教育と、今後の各位の広がりを考えたら、地域内の システム構築も、最小限のソフトでブラウザとメールでまず構築するのが実際的と 思われます。  部品の共通化は、もし必要ならそこらのレベルでなされるべきと思われます。 今回の介護保険等で、全国の各医師のソフト配信でその萌芽が見られます。期待す べき方向と思われます。すべてただで組める。従って、システム構築の自由度は飛 躍的にあがり、技術的な問題はほとんど存在しないといっても過言ではありません。
○構築費用、維持費はどうなるか ダウンサイジングと、オープン化により、従来より、かなり低額でシステムは組 める時代となりました。医療情報システムは、単なる医師会のホームページを作る ことではなく、病診連携、診診連携をつくりあげ、その中で、患者さんのデータの 蓄積を図ることと思われます。まず医師会内に情報委員会を作り、医師会内でコン センサスを得ながら、核となる人材の育成を図る。同時にメーリングリストを構築 し、参加者を増やし、大いに議論し、歯科医師会や薬剤師会を巻き込み、市内のみ でなく、広域2次医療圏で医療情報システムは組むべきものと思われます。介護保 険も始まり、これからは行政も強く関係してきます。また災害の情報ネットワーク も大切です。市民サービスを増やすことで、行政から予算を分捕るのが良い戦略と 思われます。医師会単独では組めない時代になってきました。医師会にお金はあり ませんから、各団体と共同で作る時代と思われます。  なおメーリングリストは無料ならUMINにお願いする。有料なら各プロバイダ でサービスで廉価なものがあります。たとえばIIJなどです。ご検討ください。
○まとめ  日本の医師会の第一次医療情報システムは、検査配信を主としたため、医療情報 システムとしての発展を阻害された。この反省のもとに、単なる検査配信システム を脱却するためには、医師の前にPCが配置されることが必要である。検査配信も するなら複数台のPCの存在が前提とされなくてはいけない。一人一台のPCの時 代がくることを。そういう意味ではまだまだ発展途上の状況であるともいえる。 参考文献 ダウンサイジングの現状と導入上の課題所 健一 コンピュータの歴史星野 力(構造工学系) ダウンサイジング