開業医とネットワーキング
▼はじめに
1)かかりつけ医の復権
 超音波やCT、MRIなど主に、検査機器による、医療の技術革新によって、
より医療が高度化し、その結果、大病院への患者集中がおこった。一方、開業医
の数的増加、診療所への患者数減少により、開業医の相対的な地盤低下がおこっ
ています。人口の高齢化問題と相まって、大病院の待ち時間の拡大や、主に入院
医療費の高騰などによる、医療費の増大など、種々の矛盾点が現れてきています。
国による一連の医療改革が準備されているのは、周知のことと思われます。
 地域医療計画では、特定機能病院、一般病院、療養型病床群、診療所など、医
療機関の機能分化を、押しすすめております。これは、高齢者の社会的入院の減少
や、各施設間で、より合理的な、患者配置を行うことにより、医療費の削減をねら
ったものですが、これはある意味で、プライマリケア医である、かかりつけ医の復
権につながる、重要な政策と思われます。病診連携として、病院などの収容施設群
と診療所の「かかりつけ医」との間のコミュニケーションが、より必要とされます。
また診診連携として、開業医の間でネットを形成し、お互いの専門性を生かして患
者の問題を解決しようという動きも加速されると思われます。いずれにしても、医
療施設間で、よりダイナミックな患者さんの移動が起こるわけです。
2)これからの開業医に要求される能力
 かかりつけ医は、手術や、入院など、患者さんの状態にあわせ、タイミングよく、
各施設へ患者さんを送る必要があるわけです。これまで以上の、最先端の医学知識
が要求され、たえざる自己研修の場が必要となります。さらには、高齢化社会の中
で、慢性期疾患のケア(福祉)の相対的比重の増加や、医療訴訟の増加。インフォ
ームドコンセント、医療費抑制政策による、医院経営の悪化など、開業医の仕事は、
より厳しくなってきています。これらの多種多様な問題を、的確に把握し、対処し
ていかなければいけないわけです。一連の状況変化を、支えるコミュニケションツ
ールとして注目されているのがインターネットです。では現在どういう風にインタ
ーネットは動いているでしょうか。
▼各論
私自身の情報収集の方法を説明し、ついで、現在の流れをのべてみることとします。
○私の通信環境
 通信環境はハードはNECのPC9821rv20(Pentinum-pro200mhz)+本体Ram96M
+HD2G×2です。回線はOCNエコノミー(128Kbps)です。使用OSはNT4.0です。
○現在の私の使用方法
1)電子メール「表1」
 大体、1日で50-100通きます。内容はメーリングリスト(ML)として、姫だるま
や日本臨床整形外科医会など。また、種々行っている、健康相談の質問、その他から
です。日本の主なメーリングリストは「表1」にあげておきます。2−3個興味の有
りそうなものに入ることをおすすめします。また最近はバーチャルマガジンが、大分
充実してきています。一般的なPC関係や新着ページの情報収集には便利です。
2)掲示板(BBS)
 私のホームページには訪問者ノートから健康相談まで5-6種類の掲示板があります。
日本全国の医療機関で、掲示板(BBS)を持っているところと、自然とネットワー
クが出来上がっています。書き込む内容は、特に決まっていません。テーマ別に絞り
込んであるBBSも存在します。

匿名では書かない
 最近、BBSをネットサーフして、気になる傾向としては、匿名性が前面に出過ぎている
部屋がある。どこのだれだかわからないで、掲示板等で過激なことを書く。パソコン通信
で、 NiftyとPC-vanの比較で良く言われたのは、Niftyは実名が多かった。PCーvanは、ニ
ックネームが多かった。匿名だとどうしても、歯止めがきかないで、書きすぎる傾向とな
る。やはり、ある程度自己規制の意味で、実名はきちんと分かるようにしておいたほうが
良い。守秘義務を履き違えて、徹底的に実名を隠す方もいますが、すこし違う気がします。
 情報発信には署名すべきです。新聞の匿名性は、あんまりよいことではありませんね。
節度を持った書き方が要求されます。ネット上では結構争いになりやすいので注意すべき
です。はじめから、喧嘩腰になるような無礼な書き方をする方がいます。そういう発言は
無視すべきです。相手をすべきではない。しかしそういうのを見たときは後味が非常に悪
い。どんな場合でもある程度礼儀は保つべきです。ネット上でのごたごたでの裁判は最近
の出来事です。

情報の質を上げる
 BBSはある程度社会性を持った部屋です。仲間内でしか通じない言葉で、延々と続い
ている部屋がある。他の方が入っていけない。つまりあまりにもプライベートすぎる部屋
や、あるいはあまり、人のいっていることを読まないで、あるいは考えないで、簡単に批
判する発言。物事を簡単に批判するのは、まずい。世の中はそう単純なものではない。
立場が違えば、見方は変わるものです。自分の考え方をもたないと、流される。要は
バランス感覚ですが。中々難しいものです。
 批判するにしても粗雑で、幼稚な乱暴な批判をする。これは、特に政策に対するもの
に多いようです。ネットは社会そのものなのでしょうが、インターネットが空っぽの洞
窟にならないように、情報の質をあげる努力をしましょう。

3)サーチエンジン
 インターネット ジャングルの中から特定の情報を探すにはgooやYahoo、あちゃ
らのような、いわゆるサーチエンジンが便利です。サーチエンジンを使うと、インター
ネットは巨大なデータベースであるということを、実感できます。使いこなすコツは、
とにかく、毎日ちょっとした事でも検索することです。どのようなサーチエンジンが
インターネット上にあるのかは、「サーチエンジン」で検索すればよいでしょう。ち
ょっとした使い方としては、名前を入力すれば、その人の名が挙がっているホームペ
ージなどにたどり着けます。
 検索の実際は、たとえば現在私は、医療保険問題に興味があるので、自分のところの
サーチエンジンのリンク集から、全文検索タイプのgooを呼び出し、薬剤費や、参照
価格制などの、種々のキーワードを組み合わせたりして、作業を2−3回繰り返せば、
望みの規模になります。あとは、画面に出しっぱなしにして、診察の合間の細かい時間
を利用して、検索していきます。URLと内容を、ソースごと適当なエディタに落とし
ていく。日中で、大体作業は終了します。夜にまとめるわけです。不十分なら別なキー
ワードで、再び、同じ作業をする。サーチエンジンリストは私のページを参照してくだ
さい。
4)汎用データベース
 ネット上で検索や、登録ができる、データベースがフリーウェアでも存在します。
たとえば私のところではSelena氏のDBが動いています。日本語の整形外科文献です。
設定は掲示板CGIよりもやや煩雑ですが、それほど難しいものではありません。
有料でおすすめなのは、miniSQLです。selenaはサーバーがなくとも動きます。私の
Medic engineの中のインターネットの項目に入っています。miniSQLもサーバがなくとも
動きます。まだ日本語のマニュアルはないようです。このデータベースが動き出せば、
質的にかなり違ったことができます。たとえば、地域内の寝たきり老人データベース、
私のような文献検索、福祉機器データベース、地域内医師検索データベース。アイディ
アは無限です。これから、もっと伸びて良い部門です。

5)専用線の普及が始まった
 97年の大きな話題は、まず通信スピードの改善と、OCNに代表される安価な専用
線サービス、gooというできの良い、全文検索エンジンの出現です。実際OCNの導
入により、個人でも専用線の世界を体験できます。自分のpcとネット上のPCとの区
別がつかない。文字どおり、自分のpcが世界とつながっていると実感できます。現在
専用線サービスは4社あります。
各論
1)国の政策「表2」
 国の施策としては、表を参照していただきたい。主に開業医に関係するプロジェクトは、
在宅医療支援システム、医療情報電子検索システム、へき地医療支援システム、高齢者等
緊急通報システム、障害者情報ネットワーク、レセプト電算処理システム(保険医療機関等の診療報酬
請求について磁気媒体による請求を行うことができる)。遠隔医療支援システム、医療
機関連携モデルシステム、個人健康・医療情の報統合利用システムなどです。パイロッ
トスタディが行われており、携わっている方も多いと思われます。これらはおいおい実
現されていくであろう。
2)最新医学知識の導入
 文献検索は現在はMEDLINEに、無料で直接アクセスできる。また日本語の文献データベ
ースも、徐々に整備されつつある。詳細は、開業医の羅針盤、梶原賢一郎先生のホームペ
ージや、ソネットのサービスを参照ください。
3)医師間のコミュニケーション
3−1)医師会インターネット「表3」
 日本医師会のドメイン名で、都道府県の医師会はすべて、同じドメイン名でサーパーを
開設できることになります。すべての医師会員は医師会のサーバーを介してインターネッ
トヘアクセスできることになります。主な議論は各医師会の医療情報委員会の委員の集ま
りである、全国医療情報システム協議会で行われています。まだ誰が作るか、内容をどう
するかなど、種々の問題はありますが、各地区の医師会ネットは、徐々にできつつありま
す。高橋徳先生の、インター医師会ネットをみていただきたい。医師会総合情報ネットワ
ーク構想実現のためには、地区医師会からの積み上げこそ重要である。また医師会員の教
育による、底辺拡大が最大の課題であると、思われます。
3−2)地域医療システム
 各医師会を中心に、地域医療情報システムが整備されつつある。たとえば、兵庫県の加
古川地域においては、保健センターに蓄積された健診データ・各機関からの臨床検査デー
タを、まとめたパーソナルヘルスデータを基本に、総合的な地域情報システム構築をした。
地域の過半数に当たる85機関が参画して、登録者数も住民の約1/4に達している。内
部の医療者の評価も高いようです。その他の流れとしては、救急医療体制の整備、ターミ
ナル医療・在宅医療の充実、多様な健診データの活用などが、考えられます。このために
は、病病連帯・病診連携、更には各市町村との十分な連帯が必要となります。
3−3)医療制度改悪反対キャンペーン
 現在、インターネット上でブラックアウトキャンペーンが起こっています。一連の医療
保険制度の改定に反対する医師たちを中心とした運動で、ホームページの背景を真っ黒に
したり、「Justice & Freedom Campaign」と記されたロゴイメージをページ中に貼るという
運動です。パソコン通信NIFTY SERVEの医療関連フォーラムFCASEで、整形外科医の長島公
之氏が提案したのが事のはじまり。開業医を中心に120を超えるホームページが一斉に背
景を黒くした。皆さんもぜひ参加してください。末尾に参照URLを乗せておきました。
3−4)医師同士の相互交流「表4」
 これは先に述べたように、メーリングリストや、掲示板を中心として自然発生的に、横
のネットワークができつつある。また、日本臨床整形外科医会、内科医会など専門家同士
の結びつきも拡がりつつある。主な医療機関のBBSは「表4」にあげておきます。

4)医療自体の変化
4−1)電子カルテ
 宮崎医科大学病院医療情報部の吉原博幸先生を中心に検討を行い、雛形ができました。
施設間データ交換のための標準フォーマットMML(Medical Markup Language)です。医学的
な意味タグをデータに付着して、標準のテキスト形式で送出する。この方法で、プラッ
トフォームの違いを乗り越えることが可能となります。開業医では大橋先生が精力的に
行っています。現在のカルテになってからは完全に「紙のカルテより便利」になったそ
うです。かなり実用性があがってきました。
4−2)レセプト
 国でも診療所向けのレセコンと接続可能な電子カルテの開発が進行中である。しかし、
診療報酬体系の算定条件の複雑化とともに、小児科外来診療料、老人慢性疾患外来総合
診療料(外総診)のような広範囲の包括型診療料と、出来高請求が混在するので、保険
請求のために入力したデータに包括型診療料が混じってしまい、せっかく入力したデー
タの経営分析等への活用価値が損なわれている。実際の診療行為項目と、レセプト電算
処理システムの標準マスタの関係を明確化することから、医療情報の標準化に早急に着
手すべきであると考える。日本の場合、医事会計システムを出発点に発展してきた病院
情報システムがわが国の統合医療情報システム構築の障碍となっている。標準化の第一
歩はレセプト電算処理システムによる医事システムの標準化である。
4−3)医用画像
 医用画像は、厚生省の基準やDICOM基準もあり、内容的には異論はあるものの、徐々に
機器が整備されてきている。DICOMファイルサーバーはマックやWindows用
のが存在している。しかし若干整合性が取れていない、また大手のメーカーにより、CTやMRIなどの画像をインターネットで送り、放射線科専門医が、診断すると言うようなサービスも実用化されている。また地域の病院が組んで、脳外科医にCTやMRIの画像を送り、診断コンサルトしてもらうなどのシステムも実用化されている。九州の梶原先
生は、現在個人でレントゲンフィルム、CT画像などを、レーザースキャナによりデジ
タイズしています。画像は12ビットTIFFか12/24ビットJPEGに圧縮。超
音波画像や電子内視鏡もデジタルファイリングを行っている。その他、個人のホームペ
ージでも、放射線科医を中心に、症例検討会がさかんになりつつある。めいめいのロー
カルのPCより、画像をネット上のBBSへ落とせるような、簡単なCGIプログラム
もフリーで存在する。この分野はますます発展するであろう。
4−4)遠隔医療
 離れた場所をネットワークで結んで医療を行う、いわゆる遠隔医療の実施のためには,
技術面だけでなく,医療の中にどのように遠隔医療を取り入れていくのかという医療シ
ステムの改変や法規制の改正を行うことが必要である。厚生省は,遠隔医療に健康保健
を適用する方針を決め,平成10年度の実施に向けて、具体的な検討を開始した。医師
法第20条に記載されている「無診察診療禁止」の解釈が問題点となり、厚生省は遠隔
医療を医療行為として認める方針で進めていくようです。将来のテレメディシンに向け
て衛星放送や、isdn回線を利用した、遠島と基幹病院の画像送信試験や、在宅等で
NTTのフェニックスミニなどテレビ電話を利用した24時間在宅サービスを行うとこ
ろも、ちらほらでてきた。CATVの利用例もある。
4−5)セキュリテイ
 現在のインターネットは、残念ながらセキュリテイはないに等しい。大阪医大の山本
先生を中心に現在、セキュリテイの確立に向けて実験中です。郡市医師会単位で、認証
し対外的には暗号化キーで対処する方針のようです。
5)患者教育とサービス
5−1)仮想病院、医療相談
 インターネット上でバーチャル ホスピタル(仮想病院)や健康相談をする、医療機
関が増えた。代表的なものは日本医療相談センター、インターネット医科大学などであ
る。これらはネット上で、複数の医師が参加し、医療相談を行うものである。セカンド
オピニオンとして期待される。
6)その他
6−1)医療経営情報の提供
 経営情報を流すページも増えつつある。gooで検索すれば100件以上出てくる。
6−2)大手製薬企業の情報発信
チバガイギーやJ&J、メルクマニュアルサービス、千秋薬品のホームページが優れる。
6−3)電子ブック、電子雑誌
 薬や、診断学、教科書、文献、解剖などのCDが出回ってきている。
6−4)図書館の遠隔利用
大きな図書館はたいていその目録と検索システムがネット上で開かれ出した。図書館の
電子カタログ(著者検索、表題検索、見出語検索など)を利用できる。
まとめ
 ネット上での、医療応用は急速に広がり、まさしく日進月歩であり、毎日アクセスし
ていても、全体像をとらえるのは、きわめて困難になりつつある。現在は各グループ、
各分野で、めいめい深化が始まっていると、いってよいだろう。個人でサーバを開設
する動きも広がってきている。一家に1台のサーバの時代である。今後はより一層の
回線のスピードアップを望む。

参考URL


                             本田忠
                             本田整形外科クリニック
                             webmaster@t-honda.com